『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(在中日本人108人プロジェクト 編)
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■大規模反日デモ後の中国の実情、日中関係を在中日本人108人が語る
2012年に尖閣諸島の領有権をめぐり中国各地で過去最大級規模の抗議デモが起きて以来、日本人と中国人の間の感情の悪化は否めない。本書では、さまざまな立場、理由で中国に住む日本人108人の声を集めている。反日デモのときの現地の実際の様子を伝えるほか、日中の気質の違い、在中日本人のビジネスや生活、今後の民間レベルでの日中関係のあり方などについて、108人それぞれの考えが述べられている。
反日デモについては、デモに参加している市民でさえも、心の底から日本人を憎んでいるわけではなかったことを指摘する声が多い。また、中国在住8年の渡辺和昭・共同通信中国総局長は「中国人すべてが反日ではない」ことを強調している。日本の電化製品に囲まれ、日本のアニメを見て育った若者は多い。しかし一方で抗日戦争のテレビドラマの影響を受けた中国人もまた多く、若い中国人たちの中には「親日」と「反日」の感情が混在しているのだという。 -
■感情に過剰に惑わされることなく客観的な対応を心がけるべき
加えて渡辺総局長は、日本のメディアが過剰に「中国脅威論」を煽るケースが多いことも指摘している。だがそれは日本の「自信のなさ」の裏返しだという中国人学者による論評、そして「中国を過剰に恐れず、客観的に対応してほしい」というアドバイスを紹介している。
キヤノン(中国)有限公司社長の小澤秀樹さんは、反日デモの直後でも現地中国人との交流行事は中止せずに行った。小澤社長は、反日の影響を少なくするために、「日本は嫌いだけどキヤノンは好き」と言われるような圧倒的なブランドになること、「キヤノンって日本の会社だったっけ?」と思われるほどに世界企業としてのイメージを強くすること、などの方策を挙げる。そして、なによりもオープンマインドで相手に好印象を与えることが大事という、対人関係の基本を強調している。また、在中7年の博報堂・松浦良高さんは、好き嫌いという表面的な感情論で巨大市場における成長機会を逃すことを危惧している。 -
◎著者プロフィール
「在中日本人108人プロジェクト」責任編集
加藤隆則:読売新聞中国総局長。著書に『中国社会の見えない掟』『「反日」中国の真実』(いずれも講談社)等。
須藤みか:ノンフィクションライター。上海在住。『エンブリオロジスト』(小学館)で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。
原口純子:ライター・エッセイスト。北京在住。著書に『踊る中国人』『中国の賢いキッチン』(いずれも講談社)等。