『65歳定年制の罠』 (岩崎 日出俊 著)
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■定年延長と再雇用制度には罠が隠されている
2013年4月からサラリーマンの定年制度が変わって65歳まで働けるようになり、「老後の生活が安定する」と胸をなでおろしている人がいるが、現実はそれほど甘くない。本書では経営コンサルタントである著者が、定年後のお金の問題、再就職や起業、社会と関わり続けるための方法などにはじまり、定年後も希望を持ち続けて悔いのない人生を送るためにはどう考え、何をすべきかを記している。
そもそも新制度の意味するところは、60歳で定年退職しても年金が支給されなくなるため、再雇用により65歳まで働いてもらい、年金がもらえない期間をしのいでもらおうということである。さらに、多くの企業が選ぶ「再雇用制度」では、給料が激減したり、嘱託や契約社員という不安定な身分や理不尽な配属先を強いられたりすることも多い。そうしたなか、ならば60歳定年と同時に自分で事業を始めたほうが、結果的により長い期間働けるのではないか、と考える人が最近増えている。 -
■会社に頼らず自分で仕事を始めるという選択
独立して自分で仕事を始めることにはリスクを伴う。だが、大それた事業でなくてよいのだ。規模は小さくてもアクティブな人生を選ぶ人が増えれば、日本の社会にも活気を与えられるだろう。
前職を活かして起業した例として、千葉県にある小学校の教員だったNさんが挙げられる。Nさんが定年後に自宅で開いた塾では、教員時代にはできなかった子供たちひとりひとりのレベルにあった個別指導に近い形の授業を行っている。最初の生徒は二人だったが、次第に口コミで生徒が増え、駅前ビルの一室を借りるまでになった。
また、前職とは事業内容が異なっても、「これがやりたい」という情熱、「こうしたらもっとよくなる」という創意工夫、「失敗しても立ち上がる」勇気があれば、家族はもちろん従業員や顧客は自然と味方になってくれる。キャリアや個性を活かして、新しい道へ踏み出してみることを検討してみよう。 -
◎著者プロフィール
1953年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、日本興業銀行に入行。スタンフォード大学経営大学院で経営学修士(MBA)取得。22年間の興銀勤務後、J.P.モルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズの投資銀行各社を経て、2003年より経営コンサルタント会社「インフィニティ」代表取締役。主な著書に『投資銀行』(PHP研究所)、『リーマン恐慌』(廣済堂出版)、『M&A新世紀』(KKベストセラーズ)などがある。日経CNBCテレビでコメンテーターを務める。