『IT幸福論』(岩本 敏男著)
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■人類は「情報通信革命」の真っ只中に置かれている
電車の中の風景は数年前と大きく様変わりした。かつて忙しく親指を動かしていた人たちが、いまでは画面に指を触れ、上下左右に動かしている。あっという間に携帯電話がスマートフォンに置き換わったのだ。これは、情報通信技術の目覚ましい発展の賜物のひとつである。このように情報通信技術の進化の影響は個人の生活はもちろん、社会の仕組みやビジネスのあり方、ひいては政治や芸術、宗教の世界にまで及んでいる。本書ではIT進化の歴史やITがもたらした社会変化について詳述されるとともに、ITによって未来の世界が変わるかについても考察されている。
現代は、古代に起きた農業革命、18世紀に起きた産業革命に続く“第三の革命期”にある。つまり、人類は「情報通信革命」の真っ只中に置かれているのだ。情報通信革命により、私たちはいつでもどこからでも、求める情報へ瞬時にアクセスすることが可能になり、また手軽に世界中の人びととコミュニケーションがとれるようになった。 -
■「やりたいこと」を達成するための手段としてITを選ぶ
企業の経営者には、本質的に「自分はこのような企業をつくり、社会にこのような価値を提供したい」という「やりたいこと」があるはずだ。これを“目的”とすれば、ITはその目的を達成させるための“手段”とよぶのがふさわしい。そして、自分たちがやりたい事業をより合理的に行うため、また顧客に強く訴求するため、ITの力を手段として活用することがもはや不可欠である。
例えば、自社で新たなソフトウェアを導入するときパッケージにするかカスタムメイドにするか、データの管理を行うのは社内サーバーにするかクラウドにするか、というように選択肢はいろいろある。だが、そこで大切なのは「どの技術に自分たちの事業を合わせていくか」ではなく「自分たちの事業にどの技術を合わせるか」。どのITを選ぶかよりも、自分たちのやりたいことが何であるかを深掘りすることのほうが重要だ。ITは今後、人類の将来の幸福を実現させる道具となっていくことだろう。 -
◎著者プロフィール
NTTデータ代表取締役社長。1953年長野県生まれ。1976年東京大学工学部卒業、同年日本電信電話公社入社。中央省庁システム、日本銀行、東京証券取引所など、社会インフラとなるビッグプロジェクトをシステムエンジニア、プロジェクトマネージャーとして数多く手掛け、日本のIT高度化に大きく貢献。社内資格として最上位のプリンシパルPMを有する。2009年代表取締役副社長執行役員、2012年6月より現職。