『しなやかな日本列島のつくりかた』(藻谷 浩介著)

『しなやかな日本列島のつくりかた』 ‐藻谷浩介対話集

『しなやかな日本列島のつくりかた』(藻谷 浩介著) 

著 者:藻谷 浩介
出版社:新潮社
発 行:2014/03
定 価:1,200円(税別)


【目次】
1.「商店街」は起業家精神を取り戻せるか:新雅史(社会学者)
2.「限界集落」と効率化の罠:山下祐介(社会学者)
3.「観光地」は脱・B級志向で強くなる:山田桂一郎(地域経営プランナー)
4.「農業」再生の鍵は技能にあり:神門善久(農業経済学者)
5.「医療」は激増する高齢者に対応できるか:村上智彦(医師)
6.「赤字鉄道」はなぜ廃止してはいけないか:宇都宮浄人(経済学者)

  • ■商店街の衰退は自分の命を超えて引き継ぐべきものがなくなったから

     本書の著者、藻谷浩介氏にとっての学びは、「現場」の「現実」を自分の目で見て「自問自答」し、自らの中に仮説を立ち上げた上で“現智の人”と対話し、“智識”へと生成させていく作業だという。“現智の人”とは、特定の分野の「現場」に身を置いて行動し、掘り下げと俯瞰を繰り返した結果、確固たる「智識」を確立している人たちのこと。本書では、7人の“現智の人”との対談を通し、次世代に残すにふさわしい「しなやかな日本列島」を形作る取り組みについて明らかにしている。
     『商店街はなぜ滅びるか』の著者である社会学者の新雅史氏との対談では、商店街の衰退を不可避にしたのは後継者不足であり、その原因は、商売の担い手が、家族以外の人間も取り込んだ近世商家的な「イエ」から、親子だけの「近代家族」に替わったことだと指摘する。子ども世代には「自分の命を超えて引き継ぐべきもの」がなくなっているのだ。

  • ■商店街は人々の生活への意志があふれている場所

     東日本大震災後、被災地に行った新氏が驚いたのは、石巻の商店街地区には大勢のボランティアがいたのに、多賀城市のショッピングモール地区には全くいなかったことだ。石巻には、ボランティアだけでなく、津波のあとも商店街に住み続ける人たち、商売の再開を願っている人たちがたくさんいた。商店街は単なる商業集積地区ではなく、人々の生活への意志があふれている場所だったのだ。
     翻っていま私たちに突き付けられているのは、「そもそも町はもう要らないのでは?」という根源的な問いだ。必要なものはネットで注文すれば何でも自宅まで配送される時代である。そんななか、専門性を持って奮闘している一部の商店主と手を組み、「町をなんとかしたい」と動きだす若い人たちもいる。このままでは自分が後世に残すべきものは何もない、せめて町を残すことに参加したい、という思いがあるのかもしれない。そのためにも、地域の中でアントレプレナーシップ(自分で事業を起こす精神性)をつくり、それを生かせる空間を保持していくことが、上の世代の責任ではないだろうか。

  • ◎著者プロフィール

    株式会社日本総合研究所調査部主席研究員。1964年、山口県生まれ。東京大学法学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学ビジネススクール留学等を経て、現職。2000年頃より地域振興について研究・著作・講演を行う。2010年に刊行した『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』がベストセラーとなる。2013年に刊行した『里山資本主義』で新書大賞2014を受賞。