『農業維新』 ‐「アパート型農場」で変わる企業の農業参入と地域活性(嶋崎 秀樹 著)
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■農業の世界に一般ビジネスの感覚を持ち込んで成功
儲からない産業は衰退していくのが世の常だ。農業も例外ではなく、後継者不足が深刻化して農家の高齢化が進んでいる。そんな中で、農業生産法人トップリバーは儲からないはずの農業のビジネス化に成功し、今や年商は12億円に迫っている。本書では、トップリバーの代表を務める著者が、「儲かる思考」の農業経営者を育てて農業を再生するためのノウハウを紹介している。
トップリバーが成功した理由は、契約栽培を経営の中心に据えたことにある。生産した農作物を卸売市場に出すのではなく、スーパーやレストランなどに直接納入するのだ。取引価格を事前に決めているので、豊作や凶作による相場の上下の影響を受けない。ただし、契約した数量は(不作の際には市場で高い作物を買ってでも)是が非でも供給しなければならない。一般企業で営業を経験した著者は、“取れ高は天候次第、売上げは相場次第”という農業世界での常識を、一般ビジネス社会の常識に照らし合わせて変えていったのである。 -
■「アパート型農場」で企業の農業参入を図り、農業経営者を育成
農地法が改正されてから、多くの企業が農業に参入したが、その多くは大幅な赤字を抱えて撤退した。失敗に終わるのは「農業経営」のノウハウが不足しているからだ。そこで、法人向けの農業経営リーダー研修所として開設したのが、トップリバーの「アパート型農場」構想である。
それは設備や運営体制が整備された区画制・賃借入居型の新しい農場で、ノウハウや専門人材を持たない企業でも、早期かつ容易に農業運営をスタートできる。農地の確保に苦労しなくてすむし、収穫した作物はトップリバーが買い上げるので販路が保証される。さらに、生産技術の習得はもちろん、農業経営のノウハウを習得し、「儲かる農業」を実践できる者を育成できる。イメージとしては、数多くの著名マンガ家を輩出した「トキワ荘」の農業版だ。トキワ荘のように、みなが憧れ、模倣するような農業経営者を輩出できれば、農業は将来有望な産業として人々に認知されるようになるだろう。 -
◎著者プロフィール
1959年長野県生まれ。1982年日本大学を卒業後、北日本食品工業(現ブルボン)に入社。1988年ブルボンを退社し、佐久青果出荷組合に入社(後に社長就任)。2000年農業生産法人『トップリバー』を設立。9年で年商10億円の企業に育て上げる。「農業をマネジメントする」という発想で、儲からないといわれた農業を「儲かるビジネス」として実証し、後進を育てながら、日本の新しい農業のあり方を提言し続けている。