『高齢者が働くということ』 ‐従業員の2人に1人が74歳以上の成長企業が教える可能性(ケイトリン・リンチ 著)

『高齢者が働くということ』 ‐従業員の2人に1人が74歳以上の成長企業が教える可能性

『高齢者が働くということ』 ‐従業員の2人に1人が74歳以上の成長企業が教える可能性(ケイトリン・リンチ 著) 

著 者:ケイトリン・リンチ
訳 者:平野 誠一
出版社:ダイヤモンド社
発 行:2014/04
定 価:2,400円(税別)


【目次】
1.フレッドの為に稼ぐ
2.アンティークな機械とアンティークな人たち
3.しばられない生き方
4.「高齢化の波」に乗る
5.ローザは国の宝
終.小さな工場が教える大きな教訓

  • ■古株の従業員が優れた人材だと気づいたことがはじまり

     年を取って引退した身でありながら働く――。そうした人々の人柄や経歴、さらにはその動機も、経済的理由から生きがいを求めるものまで様々である。本書では、従来の基準では引退していてもおかしくない年齢の人たちが働くことの意味を考え、問うている。
     文化人類学者である著者が研究対象として着目したのは、ボストン郊外にあるステンレス製の針を製造する家族経営の工場、ヴァイタニードル社だ。工場で働く従業員約40名のうち半数は74歳以上である。著者は同社に5年近く身を置き、同社が従業員に対して給料のほかに何を提供しているのかを、従業員へのインタビューや著者自身の同社での就労体験にもとづいて明らかにしている。
     社長を務める4代目オーナーのフレッド・ハートマンは1990年代半ば、古株の従業員たちが優れた人材であることに気がついた。彼らは仕事に強い倫理感を持ち、経験も豊富だった。そこでハートマンは、従業員の募集を高齢者に絞り始めたのである。

  • ■高齢者雇用で利益の上がるビジネスモデルを創出

     高齢の従業員は雇用主にとって想定外のありがたい存在だった。彼らの仕事は一級品であり、かつ仕事を楽しみ、やる気もあった。自分が役立っていることをもう一度実感したいとか、単調で寂しい老後の生活から抜け出したいと考える彼らは、仕事を負担ではなく、大きな機会として捉えていた。一方、雇用主は彼らをパートタイム従業員として雇い、最低賃金を支払うだけでよかった。高齢の従業員たちは、退職給付や医療給付を受ける権利をすでに前の仕事で得ているため、そういった雇用主拠出の負担の必要がないのだ。こうして同社は、利益の上がるビジネスモデルをつくり出していった。
     アメリカの製造業者の多くはコスト削減に耐えかねて国外に生産拠点を移したが、同社は高齢者を雇用する「エルダーソーシング」という解決策を講じたわけだ。そしてエルダーソーシングの労働者たちは、高齢者として追求するライフスタイルを働きながら維持することができているのである。

  • ◎著者プロフィール

    オーリン大学人類学准教授。シカゴ大学で文化人類学の修士号、博士号を取得。米国人類学協会(AAA)会員。専門は労働、ジェンダー、高齢化政策、文化基準など。スリランカで経済のグローバル化と伝統的社会通念の板挟みとなった衣料品工場の女性労働者の実態を10年以上調査してまとめた著書『ジューキ・ガールズ、グッド・ガールズ――スリランカの世界的な衣料産業におけるジェンダーと政治文化』(邦訳未刊)は、大きな反響を得た。