『鎌倉シャツ 魂のものづくり』(丸木 伊参 著)
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■高品質の国産高級シャツを廉価販売する、評判のSPAの経営哲学に迫る
布地や縫製、ボタン一つにまで徹底して高品質にこだわった高級ドレスシャツ(ワイシャツ)を4,900円で販売するSPA(製造小売業)「メーカーズシャツ鎌倉(鎌倉シャツ)」が注目を集めている。本書では、同社関係者への取材により、その独自のビジネスモデルと、それを可能にする経営哲学に迫っている。
鎌倉シャツの良品廉価を可能にする最大の要素は、自社でリスクを負う確固とした経営と取引姿勢にある。仕入れはすべて現金。必要以上の値引き交渉はしない。返品も一切ない。あくまで平等な取引を心がけることで確たる信頼を築き、良い商品を安く回してもらえる関係ができあがっているのだ。また、流通ルートは縫製工場と直結しておりシンプルだ。鎌倉シャツの原価率は59%ときわめて高い(通常のアパレルメーカーでは20%以下)が、巧みな仕入れと販売計画により、高い商品回転率と99%という消化率を実現させることで利益を出している。 -
■すべての従業員が「真摯につくり、真摯に売る」マインドをもつ
鎌倉シャツには販売マニュアルがない。従業員を対象とした教育研修プログラムも取り立ててやっていない。「普通の人間が普通にやればできるはず」という考え方からだという。
同社は良質な人材を採用して、良質な販売をめざしている。そして良質な販売のベースにあるべきものは、スキル(技術)よりもマインド(心)であるとしている。もちろんスキルをおろそかにしているわけではないが、それ以前に仕事に取り組む姿勢や、お客さまや取引先に真摯に接する心を優先させているのだ。
ある社員は「正義と正しい商いの道を心がける」ことを誇りに感じると話す。真摯につくり、真摯に売る。鎌倉シャツではセール(バーゲン)を一切しない。「昨日1,000円で売っていたものを今日500円で売ると、昨日買ったお客さまに説明がつかない」からだという。「正しいことを積み上げていけば、必ずお客さまに伝わる」とのマインドをすべての従業員が共通して持っている。 -
◎著者プロフィール
OFFICE MARUKI代表。1938年横浜生まれ。日本大学芸術学部卒。広告代理店でのコピーライターを経てヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)に入社。販売促進部主任。70年商業界入社。『ファッション販売』創刊編集長、雑誌編集部門・書籍出版担当常務を経て、96年代表取締役社長。2001年OFFICE MARUKI設立、執筆・講演活動に携わる。著書に『ユナイテッドアローズ 心に響くサービス』(日経ビジネス人文庫)などがある。