『小さなラジオ局とコミュニティの再生』(災害とコミュニティラジオ研究会 編)
-
■地域の人たちに寄り添いながら放送を続ける
地方の活性化を目的とするため、その放送エリアを市町村域に限定されたコミュニティラジオ(コミュニティ放送、コミュニティFMとも)。東日本大震災後、このコミュニティラジオもまた、心の復興や地域コミュニティ再生への役割を担ってきた。本書は、被災地での調査をもとに、地域コミュニティの再生においてコミュニティラジオの果たすべき役割や、それを支えるために必要な仕組みを提示している。
地元の人々が運営する小さなコミュニティラジオ局は、地震発生直後の混乱の中で、とにかく地域住民が生きのびるための情報を伝え続けた。さらにその後は、仮設住宅での生活に不安を覚える人たちの心を癒し、時に彼らの切実な声を伝え、見知らぬ土地での避難生活下で、同じコミュニティを大切にする者同士の間をつなぐ、大切な役目を果たしてきた。そして、多くのコミュニティラジオ局が今なお、地域の人たちに寄り添いながら、日々放送を続けている。 -
■小さなラジオ局は被災者のコミュニティ活動への参加を促す
南相馬市では原発事故から1ヵ月を経ても情報伝達手段が全く機能せず、市内に残った者も市外に避難をした者も情報がほとんど得られない状況に陥っていた。そこで南相馬市役所は、過去に実験FM放送の経験を持つ栄町商店街振興組合に声をかけ、2011年4月、振興組合が運営を担う公設民営の臨災局として南相馬災害エフエムを開局した。
臨災局は、被災当初の給水・炊き出し等の救援情報から、地域の復興情報や住民を元気づける情報の伝達へとシフトしながら、被災地の復旧・復興を支える放送を続けている。さらに、放送以外にも、被災者同士の互助活動や復興に向けた対話集会、復興イベントなどを開催。以前はなかなかつながりを持てなかった人々が臨災局の活動に参加することで横につながり、自立に向けた住民活動がコミュニティの中で生まれる土壌をつくっている。臨災局は被災者のコミュニティ活動への参加を促す機能をも持っているのである。 -
◎執筆者プロフィール
金山智子:岩手県出身。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)教授・産業文化研究センター長。
日比野純-:東京都出身。世界コミュニティラジオ放送連盟アジア太平洋地域理事。
宗田勝也:京都府出身。京都コミュニティ放送副理事長。
松浦さと子:兵庫県出身。龍谷大学政策学部教授。
松浦哲郎:石川県出身。元世界コミュニティラジオ放送連盟アジア太平洋地域理事。