『ゼロ・トゥ・ワン』 ‐君はゼロから何を生み出せるか(関 美和 著)
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■「ゼロから1」。市場に新しい価値を創り出すための方法論を提示
現代は、停滞感が漂い、一部のITテクノロジーを除き、なかなか「進歩」が見えづらい時代といえる。「PayPalマフィア」と呼ばれる起業家集団の中心人物による本書は、成功するスタートアップ(ベンチャー企業)を立ち上げ、世の中に新しい価値を生み出すための方法論を提示している。
進歩には「水平的進歩」と「垂直的進歩」の2種類があるという。水平的進歩とは、成功例をコピーすること。すなわち1からnに向かうということである。それに対し垂直的進歩は、ゼロから1を生み出すことを指す。「グローバリゼーション」は、マクロレベルの水平的進歩だ。一方、垂直的進歩を担うのは「テクノロジー」である。テクノロジーなきグローバリゼーションは持続不可能な状態を生む。中国が今のままのテクノロジーで生産を増やせば大気汚染は倍増する。私たちは、21世紀を繁栄させるために新たなテクノロジーを思い描き、創り出さなければならない。 -
■「競争」ではなく「独占」をめざし事前にしっかり計画をする
成功するスタートアップは「競争」ではなく「独占」する。「完全競争」では、価格は企業ではなく市場が決める。新規参入があると供給が増えて価格が下がる。完全競争の下では、長期的に利益を出す企業は存在しない。それに対し「独占」では、価格を自由に設定し、利益の最大化を図ることができる。独占を築くためには、支配しやすい小さな市場から始めるとよい。狙うべきは、少数の特定ユーザーが集中しているが、ライバルが少ない市場だ。また「破壊」を考えないことが大事だ。「破壊」対象となる既存会社との対比のみで語られる企業は新しくないし、独占企業にもなりえない。
事前に計画せずに少しずつ改善していく「リーン・スタートアップ」を著者は推奨しない。成功を実現するための計画がないのに、成功するのは不可能だという。事前にしっかりと計画を立て、それに資源を集中する。それでこそ、ゼロから1を生み出すことができるのだ。 -
◎共著者プロフィール
ピーター・ティール:シリコンバレーで現在もっとも注目される起業家、投資家のひとり。1998年にPayPalを共同創業して会長兼CEOに就任し、2002年に15億ドルでeBayに売却。Facebook初の外部投資家となったほか、航空宇宙、人工知能、先進コンピュータ、エネルギー、健康といった分野で革新的なスタートアップに投資している。
ブレイク・マスターズ:法律調査と分析のためのツールを作成するテック系スタートアップJudicataの共同創業者。