『合理的なのに愚かな戦略』(ルディー 和子 著)
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■合理的根拠にもとづく企業戦略がなぜ間違うのか、そのメカニズムを探る
企業戦略は、たとえそれが合理的な根拠をもとにつくられたものであったとしても、失敗に終わることがある。なぜなら、その戦略の実行には「感情」がかかわってくるからだ。本書では、ブランディングやプライシングなどにおける事例をあげながら、「愚かな戦略」におわってしまう理由を分析するとともに、その予防策を論じている。
日本企業は価格戦略が下手だという指摘を受けやすい。価格と価値の関係性を示せずにいるうちに、シェアを奪われたり、価格競争に巻き込まれたりする。
企業は消費者調査をして、その分析をもとに、価値に見合った価格を算出する。しかし消費者は、それほど厳密に判断して購入を決めているわけではない。また消費者は、価格から価値を判断することが多い。自社商品に、価格に見合う価値(競合からの差別化)があると信じるならば、消費者がそのように知覚してくれるようコミュニケーションを工夫する必要があるだろう。 -
■意思決定には感情やパターン認識によるバイアスがかかることを認識すべき
人間の脳は何らかの意思決定をする際、二つのプロセスを利用することが多い。一つは「パターン認識」。これは過去の経験にあてはめて考えることだ。もう一つは、「感情のタグづけ」である。
企業のトップや、論理的思考が得意な人が失敗するのは、自分では気づかないまま、感情や過去のパターン認識に影響を受けているからだ。エリート意識が強かったり、自分の判断に自信をもっているからこそ、無意識の領域でバイアスがかかっていることなど自分には絶対にありえないと思ってしまう。だが、それが間違いのもとになる。感情やパターン認識によるバイアスがあることを認識し、それを踏まえた判断をすべきだ。
選択には犠牲がともなう。経営者は多くの場合、トレード・オフの覚悟をして、勇気をもって選択しなければならない。しっかりトレード・オフができる経営者は、感情に乏しい、冷たい人なのではない。感情を理性で抑えることのできる人なのだ。 -
◎著者プロフィール
ビジネス評論家。立命館大学大学院経営管理研究料教授。セブン&アイ・ホールディングス社外監査役。米化粧品会社エスティローダー社マーケティングマネジャー、タイム・インク/タイムライフブックス部門ダイレクトマーケティング本部長を経て、ウィトンアクトン社代表取締役。日本ダイレクトマーケティング学会副会長。著書に『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』(日本経済新聞出版社)ほか多数。