『粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う』(中垣 俊之 著)

『粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う』

『粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う』(中垣 俊之 著) 

著 者:中垣 俊之
出版社:文藝春秋(文春新書)
発 行:2014/10
定 価:730円(税別)


【目次】
1.イグ・ノーベル賞顛末記
2.粘菌の知 ヒトの知
3.ヒトもアメーバも自然現象
4.粘菌のためらい――科学と文学のあいだ
5.不安定性から読み解く秩序づくりのしくみ
6.ヒトは粘菌に学べ

  • ■粘菌のもつ不思議な習性から人間や社会のあり方を考察する

     風変わりな「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に与えられる「イグ・ノーベル賞」を、2008年と2010年の2回受賞した日本人の学者がいる。それが本書の著者である中垣俊之教授で、どちらの回も「粘菌」にかかわる研究に対しての受賞だ。本書はその、あたかも高い知能をもっているかのような行動をする単細胞生物について、著者の研究を追いながら解説。そして粘菌の性質をヒントに人間や社会のあり方についても考察している。
     著者は2000年、英国の科学雑誌『ネイチャー』に、粘菌には迷路の最短距離を見つける能力がある、という趣旨の論文を発表した。粘菌は2ヵ所にエサがあると、それぞれに体を寄せて、間を太い管でつなぐ習性がある。そこで粘菌が迷路のすべての通路にアメーバ状になって行きわたった状態にし、入口と出口にエサを置いた。すると入口と出口をつなぐいくつかの経路のうち、最短のものを残して管が消滅したのだ。粘菌の迷路解きである。

  • ■大雑把な地図をすばやく描く粘菌のアルゴリズムが「大局観」に通じる

     さらに、関東の主要都市の地理に合わせてエサを配置すると、なんと粘菌はJRの鉄道網と近似したネットワーク状に管をつくり上げることがわかった。著者は、このような粘菌のネットワーク形成能力を、カーナビで最短ルートを探すシステムに応用する試みも行っている。
     粘菌のネットワーク形成アルゴリズムでは、まず「これは使わないだろう」という細々した道路をすばやく消去して、大まかな地図をつくるところから始める。現行のカーナビシステムでは、すべての可能性を一つずつ当たっていく方法が取られるが、粘菌の場合は、だいたいこのくらいだろうという“8割がた”の大雑把な経路をすばやく見つけるのだ。
     この、細かいところには目をつぶって大まかな全体図を見るというのは、人間による物事の理解や発想、伝達に際して、とても重要な意味を持つ。本当のプロが持つ「大局観」も、実は粘菌の問題解決法に通じるものなのである。

  • ◎著者プロフィール

    北海道大学電子科学研究所教授。1963年愛知県生まれ。粘菌をはじめ、単細胞生物の知性を研究する。北海道大学薬学研究科修士課程修了、名古屋大学人間情報学研究科博士課程修了。製薬企業、通信制高校非常勤講師などを経て、理化学研究所(97年4月~2000年10月)。その後、北海道大学電子科学研究所准教授、公立はこだて未来大学システム情報科学部複雑系知能学科教授を経て現職。2008年、2010年にイグ・ノーベル賞を受賞。