『プロデューサーシップ』 ‐創造する組織人の条件(山下 勝 著)
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■協働による創造を行う「プロデューサー型人材」としての働き方を論じる
企業のあいだで、創造と革新を牽引する「プロデューサー」型の人材のニーズが高まっている。本書は、映画プロデューサーの事例等を引きつつ、プロデューサー型人材の特質や働き方、育て方などを、経営組織論をベースに論じている。プロデューサーとは「何かを創る人」だ。そして、その創造的な活動や現象のことを著者は「プロデューサーシップ」と呼ぶ。
組織の中でのキャリア形成には、伝統指向、独創指向、共創指向という三つのタイプがある。会社の価値観に素直に従ってキャリアをつくるのが伝統指向だ。独創指向の人材は、周囲の人々の価値観を批判気味に見ながら、自分自身の価値観を形成していく。
共創指向の人材は、特定の仲間と仕事をするなかで課題を見つけ、それを解決するために他の人と協働を始めることで、新たな価値観を共有する。三つのタイプのうち、独創思考と共創指向が、プロデューサー型人材が育つキャリア形成だ。 -
■日本的プロデューサーシップは職域侵犯をするキャリア連帯がベース
組織的あるいは社会的分業が行われているなかでプロデューサー型人材が創造的な成果を上げるためには、二つの方法があると著者は考える。
ハリウッドの映画プロデューサーは、監督やスタッフ、俳優の豊富なバラエティの中から、さまざまな組み合わせを試みる。その組み合わせの中から新しいものを創造していくのだ。そうした「組み合わせ」の中から創造性を生み出すのが一つの方法だ。
一方、日本の映画業界では、人材が不足していることは否めない。組み合わせは限られてしまう。そこでもう一つの方法が考えられる。組み合わせは変えずに、むしろ“代わりがいない”属人的な仕事のなかで創造性を発揮するのだ。代わりがきかないがゆえに、かえって分業の境界を崩すことができる。職域がクロスオーバーするなかで新しいものが生まれてくるのだ。こうした関係性(キャリア連帯)をベースにするのが日本的なプロデューサーシップといえる。 -
◎著者プロフィール
青山学院大学経営学部教授。1972年大阪生まれ。大阪府立北野高等学校、神戸大学経営学部を卒業後、神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程、後期課程を修了。博士(経営学)。青山学院大学経営学部専任講師などを経て現職。経営組織論の観点から15年以上にわたり映像製作プロデューサーの研究を行ってきた。著書に『プロデューサーのキャリア連帯:映画産業における創造的個人の組織化戦略』(共著、白桃書房、2010年)などがある。