『21世紀の資本』(トマ・ピケティ  著 山形 浩生/守岡 桜/森本 正史 訳)

『21世紀の資本』

『21世紀の資本』(トマ・ピケティ  著 山形 浩生/守岡 桜/森本 正史 訳) 

著 者:トマ・ピケティ
訳 者:山形 浩生/守岡 桜/森本 正史
出版社:みすず書房
発 行:2014/12
定 価:5,500円(税別)


【目次】
1.所得と資本
2.資本/所得比率の動学
3.格差の構造
4.21世紀の資本規制

  • ■格差拡大は不可避であることを豊富なデータと緻密な論理で検証

     多くの先進国で拡大する富裕層と貧困層の「格差」は、やがて新興国と呼ばれる国々も直面する世界的な課題と言っていいだろう。本書では、現代資本主義のもとでは格差拡大は不可避であることを、豊富なデータと緻密な論理で検証し、考えられる解決策を示している。フランスで刊行された原書は英訳され米国で出版されるや、重厚長大な学術書としては異例の大ベストセラーとなり、センセーショナルな話題を集めた。
     経済学者サイモン・クズネッツは、所得格差は自動的に小さくなり、一定水準で安定するという理論を示した。だが、米国で1913年から1948年に所得格差が縮まったのは自動的なプロセスではなく、偶然の産物だった。つまり、大恐慌と第二次世界大戦が引き起こしたショックによるものだ。同様に、1980年以降に格差が広がったのも、自動的なプロセスではない。課税と金融に関する部分が大きかった。著者はクズネッツの楽観的な結論に異を唱える。

  • ■資本収益率が経済成長率を上回れば格差は増大する(r>g)

     著者は「r>g」という不等式を示す。rは「資本の平均年間収益率」、すなわち利潤、配当、利子、賃料などの資本からの収入を資本の総価値で割ったものだ。一方、gは「経済の成長率」、つまり所得や産出の年間増加率を表す。r(資本収益率)が、g(経済の成長率)を上回るということは、相続財産が産出や所得より急速に増えるということだ。相続財産が増え、労働で得る富よりも蓄積されていくと、必然的に格差が拡大する。
     教育や知識、非公害技術などに投資することで成長を促進し、不等号を逆向きにできると考えるかもしれない。しかし、先を行く経済にキャッチアップしようとしている新興国でもないかぎり、不等号を逆向きにするほどの成長率上昇はもはや難しい。
     著者は解決策として、資本に対する年次累進税導入を提案する。だが、この政策は高度な国際協力と地域的な政治統合を必要とする。現在の国際情勢からみて実現は極めて困難と言わざるを得ない。

  • ◎著者プロフィール

    パリ経済学校経済学教授。社会科学高等研究院(EHESS)経済学教授。1971年フランス生まれ。EHESSおよびロンドン経済学校(LSE)で博士号を取得後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で教鞭を執る。2000年からEHESS教授、2007年からパリ経済学校教授。経済発展と所得分配の相互作用について、主要な歴史的、理論的研究を成し遂げる。特に国民所得に占めるトップ層のシェアの長期的動向についての近年の研究を先導。