『日本の雇用と中高年』(濱口 桂一郎 著)

『日本の雇用と中高年』

『日本の雇用と中高年』(濱口 桂一郎 著) 

著 者:濱口 桂一郎
出版社:筑摩書房(ちくま新書)
発 行:2014/05
定 価:780円(税別)


【目次】
序.「若者と中高年、どっちが損か?」の不毛
1.中高年問題の文脈
2.日本型雇用と高齢者政策
3.年齢差別禁止政策
4.管理職、成果主義、残業代
5.ジョブ型労働社会へ

  • ■人件費が高くつくがゆえに、企業から排出されやすい中高年

     日本の雇用問題の中心である中高年問題とは、中高年にある人々が人件費が高くつくがゆえに、いま働いている企業から排出されやすく、さらに一旦排出されてしまうとなかなか再就職しにくいという問題である。運のいい中高年はリストラされることなく年功制で高い処遇を受け続けることができる一方、運悪くそこからこぼれ落ちた中高年は、前の会社と同じような処遇で再就職することは極めて困難にならざるを得ないのである。
     本書は、日本型雇用システムが不可避にもたらすこの構図を中心に、それが最も集約的に現れる「中高年雇用」という局面に着目しながら、戦後日本の雇用システムと雇用政策の流れを見渡している。
     2012年の朝日新聞に、「配属先は『追い出し部屋』」という記事が載った。大手電機メーカーで自主退職を迫るため、事業・人材強化センターといった名称の部屋に、会社側が「余剰」とみなした中高年社員たちが集められているというのだ。

  • ■中高年雇用の救済策は「ジョブ型正社員」

     日本型雇用システムの本質は「職務の定めのない雇用契約」という点にある。欧米などでは、企業内での労働を種類ごとに職務(ジョブ)として切り出し、その各職務に対応する形で労働者を採用するのに対し、日本では企業の労働を一括して雇用契約の目的にするのだ。それゆえ、労働者はどんな仕事であれ命じられた仕事を遂行する義務があり、「追い出し部屋」への配転をも受け入れなければならない。ジョブ無限定であるがゆえに、今までやってきた仕事があるにもかかわらず、「貴方に適した職務はない」などと言われてしまうのだ。
     労使双方にとって有益なのは、職務、勤務地、労働時間が特定された正社員、つまり「ジョブ型正社員」を増やすことだろう。ジョブ型正社員であれば、耐えられないような配転で退職に追い込まれるというようなことは、雇用契約上あり得なくなる。ジョブ型正社員とは、企業が排出したくてたまらない中高年の救済策ともなるのだ。

  • ◎著者プロフィール

    労働政策研究・研修機構主席統括研究員。1958年大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。労働省、欧州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院調査局厚生労働調査室次席調査員、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授を経て、現職。著書に『新しい労働社会――雇用システムの再構築へ』(岩波新書)、『日本の雇用と労働法』(日経文庫)、『若者と労働――「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)など多数。