『なぜ関西のローカル大学「近大」が、 志願者数日本一になったのか』(山下 柚実 著)
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■「世界初の商品開発」「業界ナンバーワン」を成し遂げた大学の改革を追う
2014年度の大学一般入試で、入学志願者数全国1位を獲得したのは、関西のローカル大学・近畿大学(近大)だった。また、2002年6月、近大の水産研究所が世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功。以来「近大マグロ」の名は日本中、いや世界に広まった。本書は、企業で言えば「世界初の商品開発」と「業界日本一」にあたる快挙を成し遂げた近大の改革の姿を関係者への取材をもとに描き出している。
大阪・梅田と銀座にある「近畿大学水産研究所」は、近大が設立したベンチャー企業が出店した料理店だ。近大の研究成果である、近大マグロなどの養殖魚を提供する。またこの店は、学生制作の陶芸の器を使う、学生考案のメニューを提供するなど、近大生の実学教育の場にもなっている。
「近大マグロ」は、エリートではない「中間層」を作る近大の実学教育や、同大学の研究の実際を分かりやすく伝える最強のコンテンツとして機能している。 -
■全教職員が「三つの目標」を共有し、同じ方向へ努力を重ねる
2012年12月、近畿大学四代目理事長は職を退くにあたって、全職員を一堂に集めた。そこで掲げられたのが、近大が未来に輝くための「三つの目標」だった。それは「(関西の私大トップ4の)関関同立に10年以内に追いつき、追い越す」「偏差値や大学ランクで測ることのできない、次元の違う独自性を持つ」「世の中に役立つ大学になる」というものだ。
近大の教職員が携帯する手帳の最初のページには、この「三つの目標」が掲載されている。教職員たちは皆、迷ったときにはそこに立ち戻るのだという。「三つの目標」は、「絶対やったろう」と士気を奮い立たせる、全教職員の精神的支柱になっているようだ。
著者が取材を通じて出会った近大の教職員は、誰もが近大のあるべき姿、将来像を生き生きと自分のことのように語っていたという。近大躍進の理由は、彼らが目標を共有し、同じ方向を向いて努力を続けていることにあるのだろう。 -
◎著者プロフィール
作家・コラムニスト、五感生活研究所代表。東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。身体と社会との関わりに関心を持ち、「五感」を中心テーマに据えて取材を重ねてきた。月刊誌連載、新聞エッセイ、ネットコラムなど数多く手がける。第一回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞。著書に『〈五感〉再生へ』(岩波書店)、『都市の遺伝子』(NTT出版)、『給食の味はなぜ懐かしいのか?』(中公新書ラクレ)他多数。