『農山村は消滅しない』(小田切徳美 著)

『農山村は消滅しない』

『農山村は消滅しない』(小田切徳美 著) 

著 者:小田切徳美
出版社:岩波書店(岩波新書)
発 行:2014/12
定 価:780円(税別)


【目次】
 序.「地方消滅論」の登場
 1.農山村の実態――空洞化と消滅可能性
 2.地域づくりの歴史と実践
 3.地域づくりの諸相――中国山地の挑戦
 4.今、現場には何が必要か――政策と対策の新展開
 5.田園回帰前線――農山村移住の課題
 終.農山村再生の課題と展望

  • ■今ある農産村は本当に消滅するのか?

     元岩手県知事、元総務大臣の増田寛也氏を中心として作成された「増田レポート」が「地方消滅」を語り、世間に衝撃を与えている。若年女性の2040年人口を独自の方法で推計し、現状から半分以下になる市町村を「今後、消滅する可能性が高い」としたからだ。
     本書は、本当に、地方、そして特にその最奥にある農山村が消滅してしまうのかを明らかにすべく、農山村の現場の中で探っている。
     近年、日本の都市部には、農山村への移住に関心を持つ人口は決して少なくない。その証拠に、移住のための専門雑誌は2誌が発行され、読者の約85%が20~40歳代であるという。その背後には、人々の「田園回帰」と呼べる農山村への新たな関心があるのだ。先の「地方消滅論」は、こうしたトレンドを徹底的に無視している。あるいは、何ら影響がないと考えている。が、両者の間にある大きなギャップを埋めずに、日本の将来を語ることはできない。

  • ■田園回帰を促進しつつ、都市・農村共生社会を構築する

     全国統計によると、2010年時点の農業集落数は約13.9万集落であり、1970年の14.3万集落と比較して、40年間で約3%の減少にすぎない。多くの農山村地域の集落は、なによりも集落に居住する人々の「そこに住み続ける強い意志」によって存続し続けているのだ。
     新しい世紀に入り、食料やエネルギーのみならず、水、二酸化炭素吸収源としての森林、が、時には各国の政治さえも動かす「国際的戦略物資」として注目されている。これらを供給する農山村は、国際的視点から見れば「戦略地域」と位置づけられ、その保全や再生は国民的課題とされるべきものであろう。また、これら物資の安定的供給は、国際的情勢に過度に振り回されることのない状況を作り出す。このように考えると、農山村を低密度居住地域として位置づけ、再生を図りながら、国民の田園回帰を促進しつつ、どの地域も個性を持つ都市・農村共生社会を構築する、という方向性が見えてくるのではないだろうか。

  • ◎著者プロフィール

    1959年生まれ。明治大学農学部教授。農政学・農村政策論・地域ガバナンス論。東京大学大学院農学研究科博士課程単位取得退学(農学博士)。(財)農政調査委員会専門調査員、東京大学大学院助教授などを経て、現職。著書に『日本農業の中山間地帯問題』(農林統計協会、1996年日本農業経済学会奨励賞受賞)、『農山村再生に挑む――理論から実践まで』(編著、岩波書店、2014年地域農林経済学会特別賞受賞)など多数。