『ゆっくり、いそげ』 (影山 知明 著)

『ゆっくり、いそげ』 ‐カフェからはじめる人を手段化しない経済

『ゆっくり、いそげ』 (影山 知明 著) 

著 者:影山 知明
出版社:大和書房
発 行:2015/03
定 価:1,500円(税別)


【目次】
1.1キロ3000円のクルミの向こうにある暮らしを守る方法
2.テイクから入るか、ギブから入るか。それが問題だ
3.お金だけでない大事なものを大事にする仕組み
4.「交換の原則」を変える
5.人を「支援」する組織づくり
6.「私」が「私たち」になる
7.「時間」は敵か、それとも味方か

  • ■クルミドコーヒーでポイントカードをやらない理由とは?

     ビジネスが売上・利益の成長を唯一の目的とすると、金銭換算しにくい価値が失われてしまう。本書は、売上高成長年率20%を達成した西国分寺のカフェ、クルミドコーヒーを経営する著者が、売上・利益重視の経済を補完する新しいビジネスの形を紹介している。
     クルミドコーヒーでは、「ポイントカード」など、割引を誘因とした来店促進を行っていない。「できるだけ少ないコストで、できるだけ多くのものを手に入れようとする」という、人間の性向を刺激したくないからだ。客がお得感だけを求めるようになると、店の側もサービスの質を上げることより、手間やコストを省いて安さや割引を実現することでそれに応えようとする。今までは美味しいケーキを1,000円で提供するために、店で丁寧に焼いていたその手間を省き、出来合いのものを出して料金やコストを抑えるようになる。店の利益は増えるかもしれないが、「1,000円」の価値ある本当のサービスを提供できなくなってしまうのだ。

  • ■支援(ギブ)する経済活動が会社と地域社会を育てる

     何かを利用(テイク)しようとする経済活動は、しばしば大事な関係性を壊してしまう。例えば、あなたが起業するとき、気心の知れた友人に共に働く仲間として会社に入ってもらったとする。社長であるあなたはその友人の「利用価値」しか見えなくなり、目標を達成できないときには叱責を繰り返す。やがてその友人は会社を去り、大切な友情は失われてしまう。
     お店と地域社会との関係は、植物と土との関係に似ている。植物(お店)が育つためには土(地域社会)が必要だが、植物(お店)は同時に根を張り、葉を落とし、土壌(地域社会)を豊かにする。どちらかを一方的に利用(テイク)する関係ではない。互いを支援(ギブ)し合い、その結果生み出される豊かさを互いに分け合っている。支援(ギブ)する経済活動は、店や会社だけでなく、地域社会をも育てるのだ。

  • ◎著者プロフィール

    1973年西国分寺生まれ。東京大学法学部卒業後、マッキンゼー&カンパニーを経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、西国分寺の生家の地に多世代型シェアハウスのマージュ西国分寺を建設、その1階に「クルミドコーヒー」をオープン。同店は、2013年に「食ベログ」(カフェ部門)で全国1位となる。ミュージックセキュリティーズ株式会社取締役等も務める。