『なぜ科学が豊かさにつながらないのか?』(矢野 誠/中澤 正彦 著)

『なぜ科学が豊かさにつながらないのか?』

『なぜ科学が豊かさにつながらないのか?』(矢野 誠/中澤 正彦 著) 

編著者:矢野 誠/中澤 正彦
出版社:慶應義塾大学出版会
発 行:2015/05
定 価:1,800円(税別)


【目 次】
イントロダクション 科学技術を豊かさにつなげよう
1.良い市場を作ろう -科学と暮らしを市場でつなぐ
2.ニーズからシーズへ -エビデンス・ベース社会を作ろう
3.理系、文系の垣根を大学から一掃しよう -真の大学改革
おわりに アントレプレナーはどうすれば生まれるのか?

  • ■科学技術を日本経済の長期停滞打開につなげる諸策を論じる

     日本経済は、やや回復のきざしが見えるものの、バブル崩壊以来長期にわたり停滞を続けている。日本では先端的な科学研究が盛んに行われており、依然として高い技術力を有している。それなのに経済が上向きにならないのはなぜか。本書では、その疑問に答えるべく、京都大学経済研究所の矢野誠教授を中心とする、さまざまな分野の専門家14人が論考を寄せている。
     矢野教授は、日本経済の長期停滞の原因を、1980年代中盤から2000年代中ごろにかけて起きたIT革命に乗り遅れたこととしている。パソコンの分野では、アップルとほぼ同時期に日本企業も開発に成功し、市場に投入していた。それだけの技術力は確かにあったのである。しかし、その後、そうした卓越した技術を活用できなかった。
     こうした経緯と現状認識をベースに、矢野教授らは「市場の高質化」「エビデンス・ベース社会への移行」「大学の文理連携」といった具体策を提案している。

  • ■株式市場とベンチャー市場を活性化することで「市場の高質化」を図る

     「市場の高質化」とは、モノが売り手から買い手に流れていく“パイプ”をきれいにすること。市場というパイプでは、ニーズ(必要性)がモノを押し流していく。ニーズを的確につかみ、それを製品のシーズ(種)にスムーズに変えるシステムを市場に構築することが必要だという。
     矢野教授らは、そのために中心的役割を果たすものとして株式市場とベンチャー市場を挙げる。日本では株式市場は普通の人と縁遠いものであり、ベンチャー市場は育っていない。まずは、株式市場を普通の人でも参加しやすいものにするべきというのが同教授らの主張だ。
     株式市場が身近なものになるには、日本社会が「エビデンス・ベース」に転換しなければならない。誰もが数量的根拠に基づき意思決定するような社会だ。さらに矢野教授らは、科学技術を市場につなげるためには、大学の教育研究において文系と理系の連携を強めるべき、という主張もしている。

  • ◎編著者プロフィール

    矢野 誠:京都大学経済研究所教授、附属先端政策分析研究センター長。1977年東京大学経済学部卒業、81年ロチェスター大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。コーネル大学助教授等を経て、96年慶應義塾大学経済学部教授。2007年より現職。
    中澤 正彦:京都大学経済研究所附属先端政策分析研究センター教授。1993年東京大学経済学部卒業、同年大蔵省(現・財務省)入省。2011年京都大学経済研究所附属先端政策分析研究センター准教授、2014年より現職。