『里山を創生する「デザイン的思考」』(岩佐 十良 著)
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■伝統と現代的感性を合わせた斬新なコンセプトで成功した「里山十帖」
新潟県の大沢山温泉に2014年5月に開業した宿「里山十帖」は客室12室と小規模ながら、その斬新なコンセプトが評判を呼び、わずか3カ月で客室稼働率9割を超える人気宿になった。さらに半年後には「グッドデザイン賞ベスト100」に選ばれるとともに、宿泊施設としては初めてとなる特別賞を受賞。本書では「これまでのデータからはほぼ確実に失敗する」と言われながら成功を収めた「里山十帖」と、それを生み出した独自の「デザイン的思考」について、同施設を計画し運営にあたる著者が詳細に語っている。
雑誌「自遊人」の編集をしていた著者は、「里山十帖」を「さまざまな雑誌の特集が詰まった宿」と表現する。「宿は地域とライフスタイルのショールームになり得る」との考えのもと、古民家の力強さをと現代生活の快適性を両立させる空間をめざしたという。そして自然豊かな里山とそこで育まれた食などを“体験”し、リラックスしながら五感をかきたてられるような宿を実現したのだ。 -
■“多重人格”になって体験し、複数の人格を統合して検討する
「里山十帖」のアイデアは、著者の「デザイン的思考」によって生まれた。そのスタートにおいては、「データを見ない」ことが重要だという。それより前に、とにかく“体験”する。宿泊施設を計画するのであれば、いろいろな宿に実際に泊まってみる。そのときには、自分の中にさまざまな価値観を存在させて“多重人格”になるのがポイントだ。そしてその後に初めてデータを見る。そのときにデータと“多重人格”のそれぞれを照らし合わせて検討することを、著者の会社では「現実社会とデータの反復検証」と呼んでいる。
それが終わったら「共感の統合」を行う。“多重人格”から必要な人格をいくつか抜き出し、“共感ポイント”を統合していくのだ。つまり多重人格を一つの“意識共同体”にまとめていく作業だ。
あとはその“意識共同体”の価値観と、自分のやりたいこと、嗜好、できることを照らし合わせながらちょうど良いポイントを探り、全体の大枠を決めていくのだ。 -
◎著者プロフィール
株式会社自遊人代表取締役。1967年東京・池袋生まれ。武蔵野美術大学4年在学中に現・株式会社自遊人を創業。2000年、ライフスタイル雑誌「自遊人」を創刊。2002年、雑誌と連動した食品のインターネット販売を開始。2004年、新潟県魚沼に事業の本拠地を移す。2014年5月に、クリエイティブ・ディレクターとして全デザインを担当した、ライフスタイル提案型複合施設『里山十帖』をオープン。