『地域包括ケアのすすめ』 (東京大学高齢社会総合研究機構 著)
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■高齢者が安心して生活を続けられるまちをめざす「柏プロジェクト」
高齢者の自立を維持するには、弱っても住み慣れた地域で安心して生活が続けられるように、在宅医療を含めた在宅ケアシステムが必要となる。本書は、高齢社会の研究を展開する東京大学高齢社会総合研究機構の「柏プロジェクト」の概ね5年間の取り組みをとりまとめている。
「柏プロジェクト」は、今後急速に高齢化が進むことが予測される千葉県柏市で、在宅医療を推進するための地域医療拠点や、24時間対応の在宅医療・看護・介護システムを備えたサービス付き高齢者向け住宅の整備などを、豊四季台団地の再開発の中で実戦している。
そして、2014年前半から稼働するこのモデルシステムを柏市全体に広げることで、超高齢社会のまちづくりをめざしている。
本格的な高齢社会までに残された期間は少ない。このような高齢化に対応するまちづくりの提案により、日本と世界の高齢社会に貢献していけるよう、プロジェクトへの期待が掛かる。 -
■「顔の見える関係会議」で多職種間の真の共感を育む
柏プロジェクトを推進していく中で、医師会、薬剤師会、介護支援専門員協議会等の多職種の連携を深めるため、「柏市顔の見える関係会議」が開催された。すると、介護職からは「医師がいるだけで緊張してしまう」、医療職からは「チームとして関わりたいが、どうも遠慮があるようだ」というような様々な意見が出てきた。
1つの病院や施設であれば連携は図りやすいが、在宅の場合は異なる事業主体と専門性の下で経営されるため、職種ごとに医療行為の制約・責任があり、どうしても連携が難しくなる。しかし利用者は、これらサービスが一体となって提供されることを期待している。
このような不調和を埋めるには、他職種間のコミュニケーションの量を増やし、他の職種の権限・責任・得手・不得手を理解するなかで連携のルールをつくり、真の共感を育むことである。「柏市顔の見える関係会議」はそのための重要な役割を果たしたといえる。 -
◎編者プロフィール
東京大学高齢社会総合研究機構:2009年、東京大学の恒常組織として設立。高齢社会の重要課題に対して全学的な知を結集して取り組み、ジェロントロジー学(個人の長寿化と社会の高齢化について、生活の質に重点を置き、医学、心理学、社会学、法学、経済学、工学など多面的、総合的に研究する学問)の推進と、政策・施策提言を行っていくことを目指している。出版物に『2030年超高齢未来』(東洋経済新報社)、『東大がつくった高齢社会の教科書』(ベネッセコーポレーション)などがある。