『リーダーの言葉が届かない10の理由』(荻阪 哲雄 著)
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■ビジョンを浸透させる過程に立ちはだかる「10の壁」を指摘
会社トップやセクションのリーダーが策定したビジョンが、全社員・全メンバーに浸透し、一丸となってその実現に向かうことは理想だが、実際にはなかなか難しい。本書では、その理想を妨げる「10の壁」を指摘し、各々を乗り越える方法を指南している。
著者はビジョンを実践につなげるまでのプロセスを「創る」「語る」「行う」の三つに分ける。まず「創る」には「(1)策定の壁」「(2)確信の壁」「(3)伝達の壁」が立ちはだかる。形だけのビジョンが策定される(1)。そのために、誰もその実現を信じられない(2)。そしてそれを、上からの指示で当事者意識の乏しい者が伝える(3)。
「語る」ステージに立ちはだかる「(4)記憶の壁」は、現場のリーダーがビジョンを憶えないこと。憶えないから、日々の仕事とビジョンが結びつかない(「(5)仕事の壁」)。さらに、ビジョンに関する取り組みは、評価につながらない。(「(6)挑戦の壁」)。 -
■「職場結束力」向上のための「バインディング・アプローチ」
「行う」ステージにある“壁”も三つだ。「(7)基準の壁」は、ビジョンが仕事上で何かを判断するときの基準にならないことを指す。「(8)援助の壁」は、リーダーが現場に無関心で、業務が過大になっても援助をしないこと。また、うまくいかなかったときに、現場の部下には総括と改善を求めてもリーダーが反省しない場合、「(9)反省の壁」が生まれる。
これらすべてのプロセスのベースには「(10)信頼の壁」がある。つまり、リーダーと部下、あるいは部門間の信頼がないことが、ビジョンが伝わらない根本的な要因なのだ。
著者は約20年間のコンサルティング経験から、ビジョンが浸透し、実践される組織には「職場結束力」があるという結論にたどり着いた。そして10の壁を越えて職場結束力を高めるビジョン実践方法「バインディング・アプローチ」を開発。3割のリーダーがこれを実践してその姿を見せることで、ビジョンは浸透できるとしている。 -
◎著者プロフィール
株式会社チェンジ・アーティスト代表取締役。多摩大学大学院経営情報学研究科修士課程修了。1963年東京生まれ。警視庁、ベンチャー企業勤務の後、一橋大学・山城章名誉教授の経営研究所へ入所する。94年、組織風土改革コンサルティングファームのスコラ・コンサルトの創業期に参画しコンサルタントとして活躍後、同パートナーになる。07年、独立。組織の結束力を高めて、ビジョンを行動へ変える「バインディング・アプローチ」を提唱。