『「対話」がはじまるとき』

『「対話」がはじまるとき』

『「対話」がはじまるとき』 

著者:マーガレット・J・ウィートリー
出版社:英治出版
発行:2011/03
定価:1,680円


【目次】
1.みんなで向かいあって
2.一息ついて振り返ってみましょう
3.対話のきっかけ

  • ■「人と人が気がかりなことを話す」ことから変化がはじまる

     「未来に希望を取り戻すために対話をはじめよう」これが本書の、シンプルかつ力強いメッセージだ。現代社会には閉塞感が漂い、多くの人がストレスと疎外感を覚え、人生の意味を失いかけている。しかし、本書は、人間の善良さを信頼し、市井の人々が語り合うことがさまざまな問題を解決するきっかけになり、そこを出発点として世界を変えることができると主張、「本物の対話」を生み出すための12のテーマを紹介している。
     真の変化は「人と人が気がかりなことを話す」ことから始まる。権力者同士が話し合うよりも、親しい仲間同士が語り合うほうが本質的な変化の契機となる。例えば著者の住まいの近くでは、母親たちのグループによる「子どもたちの通学路に危険な交差点がある」という問題について話し合われ、問題意識を共有していた。それは役所への働きかけに結びつき、数年後には、町づくりのための莫大な助成金を連邦政府から獲得するまでに至った。

  • ■決めつけや固定観念から脱却し相手の言葉に耳を傾ける

     人と対話をはじめるには、ほんの少しの勇気をもって話しかければよい。しかしその勇気は、人間の悪しき側面を信じる心からは生まれない。まずは人間の善性を信じることが必要となるのだ。そして話しかけられたら、その相手の言葉に率直に耳を傾ける。決めつけや固定観念から脱却し、一人の人間として関心をもって相手と向きあうとき、我々は驚きを感じる。その驚きが対話を継続させ、相手との距離が縮まっていく。
     本書ではこんな例も挙げられている。ドイツ・アウシュビッツのユダヤ人強制収容所の見学者の中に、地獄を生き抜いて米国にわたったユダヤ人の父を持つ男性と、ナチスの軍人が父親である女性がいた。2人のあいだには深い憎しみが横たわっていたが、いつしか会話が生まれるようになった。すると、恥や罪悪感、多くを語ろうとしない姿勢といった共通点が見つかり、理解と同情に満ちた揺るぎのない友情へと発展していったのである。

  • ◎著者プロフィール

    世界的な慈善団体「ベルカナ研究所」(The Berkana Institute)の共同創設者であり、現在は名誉所長を務める。ニューヨーク大学でシステム思考とメディア生態学を専攻し、文学修士号を取得。その後、ハーバード大学で組織行動学と組織変革を中心に学び、博士号を取得する。「この混迷の時代に、どうすれば私たちは為すべきことを成し遂げ、健全な人間関係を築いていけるか」をテーマに執筆・教育・講演活動を展開している。