『「豊かな地域」はどこがちがうのか』 (根本 祐二 著)

『「豊かな地域」はどこがちがうのか』  ‐地域間競争の時代

『「豊かな地域」はどこがちがうのか』  (根本 祐二 著) 

著 者:根本 祐二
出版社:筑摩書房
発 行:2013/01
定 価:882円


【目次】
 1.地域間競争の時代がはじまる
 2.「豊かな地域」はどこがちがうのか
 3.シティ・マネジメントへの誘い

  • ■年代別の人口増減をもとに11の地域の取り組みを検証

     自由主義経済のもとにある日本では、人や企業は生活をする場所や立地を自由に移すことができる。その結果、さまざまな要素により魅力がない地域では、人口、とくに生産人口が減少し、衰退の一途をたどることになる。逆に地域に人を寄せ付ける要因があれば、人口が増え「豊かな地域」となることができる。他地域よりも定住人口や企業立地件数を増やし、豊かになるべく、各自治体は知恵を絞っている。少子高齢化が進行するなか、生き残りをかけた「地域間競争」が激しくなりつつある。
     本書では、そうした地域間競争に向けた11地域の取り組みを人口分析の手法から検証している。そのツールの一つとして用いられるのが「年代別人口増減図(通称コーホート図)」。5歳年齢ごとに5年間の人口の増減を折れ線グラフにしたものだ。何歳ぐらいの人がその地域にどれだけ流入したのか、あるいは流出したのかが一目でわかる図である。

  • ■全寮制の高校が地域の「宝」であることに気づく

     三重県一志郡白山町(現在は津市白山町)の、2000年と2005年の5歳年齢別の人口を差し引いたコーホート図を作成してみると、はっきりとした特徴が出ていた。15~19歳で一気に増え、20~24歳で同じ規模の人数が減り、その後はほとんど変わらない。その要因を探ると、町内にある日生学園第二高等学校の存在に行き着く。同校は全寮制で、地域外出身の生徒がほとんどを占めていたからである。
     同校はダウンタウンの浜田雅功さんの出身校として有名であり、ユニークな人材を育成しているが、卒業後はほとんどの生徒が同町から離れてしまう。しかし、もし生徒たちが地域に残る、あるいはなんらかの関係をもってくれれば、地域の核となって活躍してくれるはずである。地域の人たちは、著者らが指摘するまで同校の価値に気づいていなかったが、それ以降、生徒との交流を持つようになった。「人の移動」を地域おこしに有効活用した好例といえるだろう。

  • ◎著者プロフィール

    東洋大学経済学部教授兼PPP研究センター長。1954年鹿児島県生まれ。78年東京大学経済学部卒業、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。地域開発部、米国ブルッキングス研究所客員研究員、設備投資研究所主任研究員、地域企画部長などを経て、06年、現職に就任。専門は公民連携、地域再生、公共施設・インフラ。内閣府、国土交通省などで公職多数。著書に『朽ちるインフラ』(日本経済新聞出版社、2011年)などがある。