『個を動かす』 ‐新浪剛史 ローソン作り直しの10年
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■コンビニの特性である「均質性」に反し「多様性」を求める
2002年に社長に就任して大胆な改革を実行、売上げが低迷していたローソンを見事に立て直したのが、新浪剛史氏である。本書は、10年にわたる「新浪改革」を追い、そこで打ち出された戦略の独自性はどこにあるのかを解き明かしている。
コンビニの特性の一つに、どの店でも同等のサービスが受けられるという「均質性」がある。しかし、ローソンではその逆の「多様性」を追求する。「ナチュラルローソン」や「ローソンストア100」など業態のバリエーションや地方の独自展開を推進する。新浪社長は、現代社会に特有の「多様化する消費行動」に網をかけようとしたのだ。
また新浪改革では、大胆な「地方分権」を進める。支社の下に支店をつくり、現場に意思決定などの大幅な権限移譲を行ったのだ。組織においても「個」を重視し、それぞれに自主的に考えさせることによって、多様で個性的な店舗づくりを進めたのである。 -
■「個」を捕捉するためにポイントカードによるCRMを導入
消費行動の多様化に対応するために、新浪社長は来店する客の「個」を捕捉しようとした。どのコンビニでも取り入れているPOSシステムでは、年齢や性別による「マス」で消費者を捉えることはできるが、「個客」を把握することは難しい。しかも、店員の推測に頼ることになるため不正確だ。そこで新浪社長が導入したのが「ポイントカード」によるCRM(顧客関係管理)である。2002年にローソンパスの発行を開始、2010年からはPontaに参加する。ポイントカードに登録された詳細な個人情報によってより正確な「個客」の姿が明らかになるとともに、商品の「リピート率」の把握が可能になり、細かな購買行動の分析をもとにした販売戦略や商品開発、発注ができるようになった。
新浪改革とは、業界トップのセブンイレブンとは「別のやり方」により、社内の「個」を奮い立たせ、地域の「個客」と向き合う「個店」を作り上げることだったのである。 -
◎著者プロフィール
『日経ビジネス』記者。ビジネス情報誌『日経ネットブレーン』、中小企業向けIT情報誌『日経IT21』、『日経アドバンテージ』、定年退職者向けライフスタイル誌『日経マスターズ』の編集・記者等を経て、2006年から『日経ビジネス』にて小売り業界を中心に取材、執筆を行う。2011年に『日経ビジネスDigital』の立ち上げを担当し、2012年1月からは編集長を務める。2012年9月から香港支局特派員。