『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ 著)
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■人にイエスと答えさせることに影響を与える「影響力の武器」
「デパートの試食コーナーで試食したら、買わないといけないような気がする」「欲しくもない高価な教材を注文してしまった」など、日常の場面で私たちは、よく考えずにイエスと言ってしまうことはないだろうか。
著者は、米国を代表する社会心理学者であるが、これまで自身が「だまされやすい人間」、「説得上手な人のいいカモ」であったことから、自ら広告主やセールスマン、募金集めを行う組織などに潜り込んで、"承諾誘導"の専門家が駆使するテクニックを調査・分析した。
本書では、著者の社会心理学者としての深い洞察と、数多くの事例の分析結果から、人間の行動を導く基本的な心理学の6つの原理を、人にイエスと答えさせることに影響を与える"影響力の武器"として解明している。 -
■最も強力な「影響力の武器」としての"返報性"
私たちの身の回りでよく観察される最も強力な影響力の武器は、返報性のルールである。これは「他人がこちらに何らかの恩恵を施したら、似たような形でそのお返しをしなければならない」というもので、このルールにより、私たちは恩義を感じると、見知らぬ人や嫌いな人、歓迎しかねる人に対しても、"簡便に反応"して、あまり深く分析もせず、受け取った好意に対して大きな好意のお返しをしてしまう。
この返報性のルールが威力を発揮するのは、めまぐるしく変化する現代社会が、簡便なやり方に頼らざるを得ない状況を生み出しているからである。私たちの情報処理能力は、溢れるほどの変化に追いつかず、状況全体を十分に分析することなく、多くのことを決定しなければならない。こうした「分析麻痺状態」では、注意の範囲を狭めて特定の情報だけに自動的に反応するという簡便なやり方に頼らざるを得ないのである。 -
◎著者プロフィール
米国を代表する社会心理学者。ウィスコンシン大学を卒業後、ノース・キャロライナ大学(1970年に博士号を取得)、コロンビア大学を経て、現在アリゾナ州立大学で教鞭をとっている。1996年度の米国心理学会第8部会(性格および社会心理学)の会長も務めている。専門は、社会的影響過程であるが、援助行動や環境行動など幅広い領域で数々の業績を残している。