『エリヤフ・ゴールドラット 何が、会社の目的を妨げるのか 』
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■日本の企業は最も大切なものを捨てている
世界中で1000万部という大ベストセラーとなった『ザ・ゴール』の中で、ゴールドラット博士が展開したTOC(制約理論)のコア概念は、ひとことで言えば「ハーモニー(調和)」である。従って「和」や「調和」が当たり前の文化となっている日本の経営風土に、TOCがマッチしているのは何ら不思議なことではない。博士が最も愛した日本の言葉「WA(和)」こそ、世界の企業が見倣うべきものなのだ。
博士は、その「和」や「調和」の具体的な形である終身雇用制は、日本企業の競争力の源泉の一つだと考える。ところが近年、日本企業はその最も大切なものを自ら捨て去ろうとしており、リストラに熱心なように見える。マネジメントは追求すべき優先順位を間違えているのである。従業員に忠誠を尽くさない企業は、従業員からの忠誠を期待することはできない。そして従業員の忠誠を得られない企業は、顧客からも忠誠を得ることはできず、遅かれ早かれ、市場から淘汰されてしまうだろう。 -
■本当の制約は、経営者の注力だった
TOCにおける「制約」とは、最も希少なものであり、そこに集中してマネジメントすることによって、組織全体のパフォーマンスは短期的に飛躍的に改善する、というのが博士の考えだ。
もしも、経営者の希少な時間があれもこれもといつもバタバタしていて、組織全体の改善に結びつかないようなことばかりに費やされているとしたら、それは、組織全体にとって大きな損失と言わざるを得ない。言い換えれば、経営者の注力をどこに集中していくかということが、組織のパフォーマンスを大きく左右することになる。
長年の探求の結果、博士のたどり着いた結論は、組織における本当の制約は、経営者の注力にあったということである。そして、TOCは制約に取り組む、全体最適のマネジメント理論である。つまり、TOCで変えるのは、現場ではなく、経営なのだ。そして、経営者が変われば、現場も変わるのだ。 -
◎エリヤフ・ゴールドラット氏のプロフィール
もともとはイスラエルの物理学者だったが、世界的な経営コンサルタントとして活躍。1984年に出版された『ザ・ゴール』は全世界で大ベストセラーとなった。その中で説明された生産管理の手法がTOC(Theory of Constraints:制約理論)である。その後、TOCを新しい会計方法(スループット会計)や問題解決手法(思考プロセス)へと発展させ、生産管理やサプライチェーンマネジメントに大きな影響を与えた。2011年6月没。
※本書は、ゴールドラット氏の生前のインタビュー、論文・著作、発言などを編集したもの。