『「わかりやすい経済学」のウソにだまされるな!』 (益田 安良 著)
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■単純明快な"わかりやすい"経済理論にはウソや甘さがある
現実の経済は「風が吹けば桶屋が儲かる」式の単線論理では語れず、複雑な因果関係で成り立っている。ところが、マスメディアなどに登場する経済評論家や政治家は、「これさえやれば日本経済は復活する」といった単純明快で"わかりやすい"理論を展開したがる。「財政再建より景気対策を優先すべき」「金融緩和すればデフレを脱却できる」等々である。だが、こうした単純明快な経済理論には、ウソや甘さがあり、それが「間違った政策」「意味のない政策」を生む。結果的に国民が不幸になるのである。本書は、銀行・金融系シンクタンク出身の著者が、自身の経験も踏まえ、「経済は単純なものではない」ことをまず強調。次いで複雑な経済論議を正しく読み解くために、(1)合成の誤謬、(2)時間軸のずれ、(3)セクターの違い、(4)モラルハザード、(5)社会目的との相克、という5つの視点を提唱し、この視点から、現在問題となっているいくつかの経済論議を解説している。
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■5つの視点から論議を展開し、タフな経済政策を
たとえば「合成の誤謬」とは、「個々には正しいことが、全体においては必ずしも正しくない」ことをいう。企業がリストラをすれば、コスト減により収益力が高まり、その企業の株価の上昇要因となるが、多くの企業がリストラに走れば、個人所得が減少して個人消費が低迷し、結果的に日本全体の景気が落ち込む、といった例がこれにあたる。
「セクターの違い」は、いわゆる"立場の違い"によって、その政策はプラスにもマイナスにもなるということだ。TPP協定参加の是非が、このよい例である。輸出業者の立場に立つか、農業従事者の立場に立つかによって、TPPは「大歓迎」とも「大反対」ともなる。
このように、単純な論議では語れない経済問題も、5つの視点によって論点を切り分けていくと理解しやすくなる。経済政策のあり方を考えるとき、この5つの視点から論議を展開し、「愚策」とならないタフな経済政策を打ち出して欲しい、と著者は訴えている。 -
◎著者プロフィール
東洋大学経済学部教授、同大学大学院経済学研究科教授。経済学博士。1958年生まれ。京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1988年に富士総合研究所(現みずほ総合研究所)に異動、ロンドン事務所長、主任研究員、主席研究員などを経て、2002年4月より現職。専門は経済政策論、金融システム論、日本経済論。主な著書に『中小企業金融のマクロ経済分析』(中央経済社)、『反常識の日本経済再生論』『グローバル・マネー』(日本評論社)などがある。