『鉄道をつくる人たち』 (川辺 謙一 著)

『鉄道をつくる人たち』 ‐安全と進化を支える製造・建設現場を訪ねる

『鉄道をつくる人たち』 (川辺 謙一 著) 

著 者: 川辺 謙一
出版社: 交通新聞社
発 行: 2013/02
定 価: 840円


【目次】
 1.日本最大の分岐器をつくる
 2.地下鉄をつくる
 3.電車の窓ガラスをつくる
 4.電車のパンタグラフをつくる

  • ■一般にあまり知られていない鉄道技術4ジャンルの実情を紹介

     時間に正確かつ安全性の高い輸送を実現している日本の鉄道技術は間違いなく世界に誇れるものだ。本書は、そんな優秀な技術のうち、「分岐器」「地下鉄トンネル」「窓ガラス」「パンタグラフ」という普段情報公開されることが少ない4分野にスポットを当て、具体的な工夫、技術革新の最前線や取り巻く状況などを詳細に紹介している。
     鉄道車両に取り付けられた窓ガラスの製造・販売に携わる企業の一つがAGCファブリテックだ。同社によると電車の窓のガラスはすべてが「安全ガラス」と呼ばれるもの。それらには走行する環境によって強度や構造にきめ細かい工夫がなされている。
     これまでの窓ガラスは周囲の環境を受け入れる「受動的」存在だったが、AGCファブリテックはそれを「能動的」に変える取り組みをしている。たとえば、窓ガラスをタッチパネルにして乗客が自由に調光調整できる電子カーテン機能、画像等を表示する情報提供機能などが検討されているという。

  • ■日欧の考え方の違いを乗り越えながら海外向けの製品を開発

     電車の屋根に据え付けられた集電装置である「パンタグラフ」については、国内シェアトップの東洋電機製造に取材している。
     パンタグラフの開発にはきわめて長い期間が費やされるという。JR東日本の新型新幹線車両・E5には約10年を要した。架線との相互作用で性能を発揮するものであるため、実際の電車に乗せて走行させる実験を繰り返さなければならないからだ。
     東洋電機製造では海外向けの高速車両用パンタグラフも開発しているが、相当の苦労があるそうだ。たとえば欧州で多く採用されているADDという装置が日本では使われていない。ADDは架線と接触するすり板が破損したときに自動的にパンタグラフを下げる装置だが、日本では故障が「あってはならない」と考えるため、故障を前提とした部品は必要ないとする。かえって故障を生む可能性のある部品は排除しようとする。海外への売り込みには現地に合わせて一から開発しなくてはならないのだ。

  • ◎著者プロフィール

    鉄道技術ライター。1970年三重県生まれ。東北大学工学部卒業、東北大学大学院工学研究科修了。化学メーカーに入社し、半導体材料などの開発に従事。2004年に独立、雑誌・書籍に数多く寄稿。鉄道関連のさまざまな職場や当事者を取材・紹介したり、高度化した技術を一般向けに翻訳・解説している。