『地域活性化ビジネス』
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■「ないものねだり」の地域活性化から脱却しよう
人口減少・少子高齢化など、今、地域を取り巻く環境は厳しい。これまでは、工場誘致や公共事業など、地域に不足するものを外から補う「ないものねだり」による地域活性化を模索してきたが、衰退に歯止めがかかってはいない。また、震災被災地の現在の窮状を考えると、衰退しつつある地域を襲った東日本大震災の復興は容易ではない。今こそ、これまでの地域活性化を問い直すべきである。
こうしたなかで、注目され、期待が集まるのが、企業が主体的に地域活性化に取り組む事例である。企業のビジネス感覚は、地域の潜在的資源を活かす「あるもの探し」やコスト意識の発揮などにおいて存在感を増している。本書は、街おこしに企業の視点を活かす、「地域活性化ビジネス」について記したものである。これまでのやり方に固執せず、新しい地域活性化を模索していくためのヒントとして、各地の事例から引き出される課題やその対策を多くのデータ分析とともに提示している。 -
■来場数10万人を400万人へ増やした「おかげ横丁」
企業が主役の地域活性化事例のひとつとして、伊勢市の「おかげ横丁」がある。伊勢市がある三重県は著名観光施設を多く抱える日本でも有数の観光県であり、なかでも伊勢神宮の集客力は際立って高い。しかし、門前の「おはらい町」はこれを十分に活用できず、80年代には町の通行数は年間10万人強、正月のお参りシーズン以外は人影がまばらな状態となっていた。この状況に危機感を抱き、動きだしたのが「赤福餅」で知られる赤福である。
赤福は、伊勢神宮の門前町としてふさわしい街づくりのために様々な会合に参画し、口を出すと同時に多額の費用も負担し、積極的な行動を重ねた。その集大成が江戸時代の街並みを再現した「おかげ横丁」である。外観だけでなく中身の充実にも配慮し、店舗で販売されるものは、伝統的なもの、地域で作られたり、穫られたりするものに限定するなどこだわりの商品・サービスに徹している。今では年間400万人にのぼる来場者数を誇り、非常に成功した事例として注目されている。 -
◎著者プロフィール
みずほ総合研究所株式会社 調査本部政策調査部主任研究員。慶應義塾大学経済学部卒、旧富士銀行系シンクタンク・富士総合研究所入社後、3行合併により現職。地域経営、人口減少、少子高齢化などを担当。主な著書に『日本経済の明日を読む2013』(共著、東洋経済新報社)、『雇用断層の研究‐脱「総中流」時代の活路はどこにあるのか』(共著、東洋経済新報社)などがある。