『メディアのあり方を変えた 米ハフィントン・ポストの衝撃』(牧野 洋 著)
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■"人間の物語を語る"ストーリーテリングで差別化に成功
2013年5月、米国で大人気となっているニュースサイト「ハフィントン・ポスト(通称・ハフポスト)」が日本上陸を果たした。朝日新聞との合弁会社による独自の日本版である。本書は、米国のメディアのあり方を変えたともいわれているハフポストの成功の要因を、創設の経緯と戦略を追うことにより論じたものである。
米ハフポスト共同創業者兼編集長のアリアナ・ハフィントン氏は、ハフポストの使命を「ストーリーテリング」であるとしている。速報ニュースを主とする他の多くのニュースサイトは「データマイニング(データを処理すること)」ばかりと指摘。それに対して、新聞のフィーチャー記事(長文の読み物)にあたる、"人間の物語を語る"ストーリーテリングを重視したつくりにすることで差別化に成功したのだ。そしてこの方針は、後に同サイトの記事が、ジャーナリズムの最高権威であるピュリッツァー賞の受賞にもつながることになる。 -
■退屈したビジネスパーソンのネットワークに目をつける
後にハフポストの共同創業者の一人となるケネス・レラー氏は、「まったく接点のなかった人たちが突如つながり、同じ目的や意識を共有することはできないか」と考えていた。レラーから相談を受けた、研究ラボ「感染メディア」を主宰するジョナ・ペレッティ氏は、あるアイデアを持っていた。「ボアード・アット・ネットワーク(BWN)」である。すなわち「仕事中に退屈して、インターネットにつながれたパソコンをぼんやり見つめているビジネスパーソンたち」。そこに、友人や同僚に見せたくなるような情報を流せば、それがウイルスのようにネットワークに広がるのでは、と考えたのだ。
そのアイデアに、幅広い人脈をもつアリアナ・ハフィントンの、「弱いつながりを強いつながりに変える」才能が加わることで、ハフポストは生まれた。ハフィントンは有名人にブログを書かせ、それを集客の目玉にした。かくしてハフポストは開設から1年で月間100万人のユニークビジターを誇る人気サイトに成長したのである。 -
◎著者プロフィール
ジャーナリスト兼翻訳家。1960年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米コロンビア大学ジャーナリズムスクール卒業(修士号)。日本経済新聞社でニューヨーク駐在や編集委員を歴任し、2007年に独立。早稲田大学ジャーナリズムスクール非常勤講師も務める。著書に『官報複合体』(講談社)、『不思議の国のM&A』(日本経済新聞出版社)などがある。