『ジエンド・オブ・イルネス』(デイビッド・B・エイガス/クリスティン・ロバーグ 共著/野中 香方子 訳)
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■システムとしての自分の体の現状を知る
スティーブ・ジョブズの医師も務めた米国第一線がん研究者である著者は、健康になるのに正しい答えはなく、多くの選択肢の中から、個人の価値観や健康事情に基づき、最善の決定をすべきだと提言している。たとえば、がんの場合、医師はそれを侵入者と見なし、切り取るか、壊そうとする。しかし、がんは感染症のような単純な病気ではない。病気に冒されている細胞、それが関係する臓器、体全体など複数の物差しが必要であり、心臓病、糖尿病などの病気と同様、システムが機能不全になったことの現れである。がんは、体が「持つ」あるいは「かかる」ものではなく、体ががんという状態に「なる」のだ。
システムとしての自分の現状を知るためには、体重、睡眠時間など健康に影響する習慣や癖といった情報を集めたパーソナル・メトリクスの確立が必要である。その上で、遺伝子やタンパク質の状態を調べる実践的で利用しやすい検査を受け、健康管理のためのロードマップを作成し、健康向上に役立てるべきだと著者は主張する。 -
■体が求めているのはシンプルな恒常性である
たとえば、ビタミン剤で食事による不足を補うことは合理的な方法ではない。食べ物が豊富にあるこの時代に、錠剤でビタミンやそのほかの栄養素を摂る必要はないのだ。むしろ、サプリメントのような不自然な形でのビタミンDの大量摂取は、細胞のビタミンD受容体が常に下方制御されることになり、体内のバランスを崩してしまう。また、ビタミンCはがん予防には役立つが、がんを発症した人にとっては天敵となる。腫瘍はビタミンCが大好物なので、がんに餌を与えることになりかねないのだ。
栄養や健康に関して近道はない。体は複雑で、完全に理解することはできないが、体が求めているのはシンプルな恒常性であることは確かだ。薬やサプリメントへの依存、不規則な生活、睡眠不足、過度の運動、食べすぎ、飲みすぎといったアンバランスな行為を避け、食事、睡眠、運動を365日、ほぼ同じ時間に行うという規則正しい生活を送ることによって病気になるリスクを減らすことができるのである。 -
◎共著者プロフィール
デイビッド・B・エイガス:医学博士。南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校教授、USCビタビ工学校教授、USCウエストサイド・がんセンター長および応用分子医学センター長。プロテオミクスとゲノミクスを応用したがん治療法の開発に取り組む。米国がん協会の内科医研究賞など、数々の賞を受賞。健康維持のための最新の医療技術・サービスを提供するアプライド・プロテオミクス社、ナビジェニクス社を共同で設立。
クリスティン・ロバーグ:ロサンゼルス在住のライター、編集者。専門的な話題を理解しやすい作品に仕上げることに定評がある。