『商店街再生の罠』(久繁 哲之介 著)
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■商店街が「大型店やコンビニに客を奪われた」は幻想である
かつては賑わいを見せていた商店街が、「シャッター商店街」になる光景を多くの地方都市でしばしば目にする。こうした商店街の衰退の要因は、よく言われるように「大型店やコンビニに客を奪われた」からなのだろうか。本書で著者は、それは幻想であり、真実は、商店街の店主たちが地域密着の努力を怠った結果であると指摘する。
商店街が衰退する本質は、「公務員(地方自治体)などの商店街支援者と商店主双方の多くが、意欲と能力に欠けている」ことにある。ここで言う能力とは、「消費者ニーズに気づく力、消費者ニーズに対応する力」を指す。だが、公務員と商店主にはこの能力が驚くほど欠けていて、自分たちが衰退した理由を正しく認識できないだけでなく、他の地域の再生成功事例について、その本質を見ず、形だけ模倣しようとして失敗するのだという。その結果、自治体は商店街の間違った救済策に補助金を投入し続け、商店主はますます自立する意欲と能力を失い、補助金への依存度を高めるという弊害が起きている。 -
■商店街が見捨てた地元市民のニーズを、大型店が満たしている
形だけ模倣して失敗した例として、大分県豊後高田市の商店街がある。同商店街は「新横浜ラーメン博物館」のレトロ感を模倣して、2001年に「昭和の町」として再出発、約2万6000人だった年間来訪者数は、2年後には20万人を超えるようになった。「まちおこし」の成功事例としてもてはやされたが、実際は、マスコミで報道される「絵になる場所」、食べ歩き商品や土産品を扱う店が並ぶ界隈だけに観光客が訪れ、同じ商店街でも地元の人が必要とする生活用品を扱うような場所は「シャッター商店街」と化している。地元市民は、「商店街は観光地になっちゃったから、もう行けないね」と、大型店を利用するようになったのである。本来、商店街は地元市民のために、生活インフラ機能を強化してリピート客を増やすことで活性化しなければならないのに、観光地化に走って失敗した例である。「大型店に客を奪われた」のではなく「商店街が見捨てた地元市民のニーズを、大型店が満たした」のだ。
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◎著者プロフィール
地域再生プランナー。1962年生まれ。早稲田大学卒業後、日本IBMでマーケティングを担当。現在は都市研究センター研究員。日本でのスローシティ提唱者として脚光を浴びているほか、ブログ『久繁哲之介の地域力向上塾』などを通じて地域再生や社会起業の支援をしている。実家は老舗飲食店で、個店経営の基本と裏側に詳しい。著書に『地域再生の罠』(ちくま新書)、『日本版スローシティ』(学陽書房)など。