『魂の経営』(古森 重隆 著)
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■デジタル化によって窮地に陥った富士フイルムを救った大改革を語る
プロ・ユースも含め、現在、カメラや写真はほぼ完全にデジタルに移行している。2000年頃をピークに世界の写真フィルムの需要は激減し、イーストマン・コダック社などフィルム事業を主とする企業は窮地に追い込まれている。そんななか、富士写真フイルム(現・富士フイルム)は大胆な改革を実行、事業の多角化・合理化によって危機を回避し、業績を復活させた。本書は、その改革のリーダーシップを執った著者が、改革の経緯とともにその経営哲学について語ったものである。
2003年にCEOに就任した著者は、翌年中期経営計画「VISION75」を発表。構造改革、新たな成長戦略構築、連結経営の強化などの方針を打ち出す。「第二の創業」といえる大改革のスタートだったが、著者には写真フィルム事業から撤退する考えはなかったという。撤退ではなく、需要に応じたスリム化を図った。写真文化を守り続けることが同社の使命である、という固い信念があったのだ。 -
■CEOのスピーディでダイナミックな決断力が会社の業績回復に結びつく
著者・古森CEOは、同社の持つ技術(シーズ)と世の中のニーズを突き合わせ、六つの重点事業分野を策定する。既存の成長事業の強化と新事業の創出という二つのアプローチによる戦略を描いたのだ。新事業を進めるに当たっては、シナジー効果を重視したM&Aを推進するとともに、研究開発体制を整備。すぐには利益に結びつかない先進技術研究への投資を推し進めたのは、「企業はたえず新しいものを追い求めるべき」という考えと、未来を見据える長期ビジョンを重視したためだ。
改革に成功した要因として著者は、自らのスピーディでダイナミックな決断力を挙げる。そしてそうした決断のために必要な、ある種の野性的な勘や直感力を「マッスル・インテリジェンス」と呼び、それを経営者が持つべき能力としている。マッスル・インテリジェンスは勉強して身につくものではないが、日々の仕事でスピードやダイナミズムを意識することで磨くことができるという。 -
◎著者プロフィール
富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEO。1939年旧満州生まれ。1963年東京大学経済学部卒業後、富士写真フイルム(現・富士フイルムホールディングス)に入社。1996年~2000年富士フイルムヨーロッパ社長。2000年代表取締役社長、2003年代表取締役社長兼CEOに就任。2012年6月から代表取締役会長兼CEO。公益財団法人日独協会会長。日蘭協会会長。2007年~2008年NHK経営委員会委員長。