『和牛肉の輸出はなぜ増えないのか』(横田 哲治 著)
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■日本の和牛が大きな歴史的転換期を迎えている
牛肉の輸入が自由化されて20年。赤身肉の輸入肉に対抗するために、日本の農家は和牛の特色である霜降り肉生産を目標にしてきたが、いま、その目標が根底から見直しを迫られている。霜降り肉生産においては高価な穀物飼料を与えるため、牧草飼育に比べて生産コストは3~4倍高くなる。にもかかわらず、近年、市場でA5等級の最高級の和牛肉に対し、農家が期待するほどの値段がつかなくなっている。さらに、オーストラリア産の和牛肉が、シンガポールや香港などの市場で販売され、日本の和牛肉と激突している。
本書では、和牛肉は国内のみで生産される特殊なものという考えを変えなければいけない時を迎えているのではないかと語る著者が、国内のみならず、オーストラリアなどにおける和牛肉生産の現場を紹介。日本の和牛肉生産の問題点を指摘するとともに、日本の農業の根幹は和牛と稲作にあることを忘れてはならないと警鐘を鳴らしている。 -
■稲作との複合経営とあか牛に和牛生産の活路を見いだす
栃木県の稲作地帯で「和牛とコメ」をモットーに和牛の繁殖をしている農家がある。日本の和牛生産のカギは稲作との複合経営にあるとし、60頭の牛から出る糞を田んぼに戻し、田んぼから取れる藁を餌とする、循環型の農業を行っているのだ。年間の子牛の販売は55頭で、この農家の繁殖経営は日本の平均頭数をはるかに越えている。
また、日本の広大な草地と山林原野を生かすには、明治以来、日本各地で飼育されている「あか牛」に注目してはどうかと著者は提言する。あか牛は、オーストラリア、アメリカなどでも高く評価されている肉牛で、病気に対して強健であること、牧草で飼料穀物をさほど与えなくても発育がいいこと、1頭当たり生産できる肉量が多いことなどの特色がある。春から秋まで牛舎から出して放牧すれば、その間は餌をやる手間も糞尿処理の労働もなく、稲作などの労働も可能になる。自然の中で健やかに育った牛の肉質は脂肪が少なくヘルシーで、しかも美味しさをしっかりと持つ。あか牛は、大自然の中で生産できる貴重な品種の一つなのである。 -
◎著者プロフィール
国際農業ジャーナリスト。一般社団法人FSN(食の安全を考えるネットワーク)理事長。健康な地球市民を育てることを目標として、「食の安全・安心は国境を超える」を信条に、精力的に日本および世界各地の農村を歩き、各国の農業事情、農政を取材している。『牛肉はなぜ高いか』(サイマル出版会)、『天皇家の健康食』(新潮社)、『牛肉が消える』(日経BP社)、『食を守る』(商業界)など著書多数。