『日本人はなぜ存在するか』(與那覇 潤 著)

『日本人はなぜ存在するか』

『日本人はなぜ存在するか』(與那覇 潤 著) 

著 者:與那覇 潤
出版社:集英社インターナショナル
発 行:2013/10
定 価:1,050円


【目次】
 1.「日本人」は存在するか
 2.「日本史」はなぜ間違えるか
 3.「日本国籍」に根拠はあるか
 4.「日本民族」とは誰のことか
 5.「日本文化」は日本風か
 6.「世界」は日本をどう見てきたか
 7.「ジャパニメーション」は鳥獣戯画か
 8.「物語」を信じられるか
 9.「人間」の範囲はどこまでか
 10.「正義」は定義できるか

  • ■自明と思われている「日本人」の存在を「再帰性」をキーワードに問い直す

     私たちのほとんどは、自分自身が「日本人」であること、「日本人」が固有の歴史や文化を有する確固とした存在であることを自明と考えているのではないだろうか。ところが本書は、「日本人」の定義は一律ではなく、その存在は限りなくあいまいなものではないか、という問題提起をする。そして「再帰性」をキーワードに、「日本人」をどう捉えていくべきかを、哲学、心理学、社会学、民俗学等の視点から多角的に探っている。
     「再帰性」とは、現実を後から認識して判断するのではなく、先に認識があり、それに合わせて現実を作り変える現象を意味する。たとえば「日本人は集団主義的である」という認識は、確実に証明された「現実」ではない。先に「集団主義的だ」という通念があり、多くの日本人がそれを踏まえて集団主義的な行動をとり続けているという「再帰的」な側面もあるのだ。そして日本人の歴史や伝統、文化などすべてが「再帰的」であると著者は主張する。

  • ■再帰的である「日本人」は、未来に向けてリニューアルするチャンスがある

     「日本人」という存在、またその歴史や文化は、時代ごとの社会構造や人々の意識の変遷にしたがって、「再帰的」にその意味づけが変わってきた。「日本人」とは何か、という定義にしても、「日本人」という言葉が使われたときの状況や文脈によって変わってくる。「日本人」の輪郭は常にあいまいなのだ。
     グローバル化が進展し、海を越えて人々が頻繁に行き来するようになると、「日本人」の輪郭はますますあいまいになってくる。そのとき私たちは、自らのアイデンティティがぐらつき、不安を覚えるかもしれない。しかし、著者は「逆に考える」ことを提案している。すべては「再帰的」な存在であるならば、「永遠」も「絶対」も存在しない。そのことは、現代、そして未来を生きる私たちには、再帰性を利用して、より正義と思われる方向、さらに優れた存在へと「日本人」をリニューアルしていくチャンスが与えられているということでもあるのだ。

  • ◎著者プロフィール

    愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科准教授。1979年生まれ。東京大学教養学部超域文化科学科卒業、同大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了。専門は日本近現代史。他の著作に『翻訳の政治学』(岩波書店)、『帝国の残影』(NTT出版)、『中国化する日本』(文藝春秋)、『史論の復権』(新潮新書)、共著に『「日本史」の終わり』(PHP研究所)、『日本の起源』(太田出版)などがある。