『寄り道人生で拾ったもの』(塩谷 靖子 著)

『寄り道人生で拾ったもの』

『寄り道人生で拾ったもの』(塩谷 靖子 著) 

著 者: 塩谷 靖子
出版社: 小学館
発 行: 2009/04
定 価: 1,785円


【目次】
 1.寄り道もまた楽し
 2.寄り道小道

  • ■42歳から音楽の道を志した「全盲の声楽家」が自らの半生を振り返る

     8歳のときに視力を失った塩谷靖子さんは、42歳から師について声楽の勉強を始め、後に「全盲のソプラノ歌手」として世に知られることとなる。本書は、ハンディキャップを抱えながらもさまざまなことにチャレンジし、かつ人生を楽しんできた塩谷さんが、自ら「寄り道だらけ」と振り返る半生と、歌や趣味、生活について綴ったエッセイである。
     東京教育大学附属盲学校小学部に入学した塩谷さんは、熱心な音楽の先生の影響で音楽に興味を持ち、歌手に憧れるようになる。しかし、幼少時からピアノを習っていなかったことが要因で音楽家への道を断念。同校中学部、高等部普通科を経て、生活手段を確保するために理療科(鍼やマッサージを学ぶ職業課程)に進学する。しかし高等部で数学が好きになった彼女は、東京女子大学の数理学科に入学し、卒業後にはコンピュータ・プログラマーとして就職。そこで障害者用のソフトウェアの開発などに取り組むことになる。

  • ■どんなことにもプラス面とマイナス面があり「寄り道」も決して無駄ではない

     結局、プラグラマーの道は挫折することになる。しかし塩谷さんは、この「寄り道」が後に続く障害者の理系志望者やプログラマーの道を開くことに多少なりとも貢献できたのではないか、と振り返る。さらには、自分のしてきたことにどういう意味があったかと考えること自体、実は無意味ではないか、とも語る。どんなことにもプラス面とマイナス面があり、自分の寄り道は無駄だったとも、得るものがあったとも、どちらとも言えるものだと。
     塩谷さんはよく、「なぜ歌うのですか?」と問われるという。それに対して「自分が歌いたいから」という答えとともに彼女が付け加えるのは、「目が見えないことが芸術的な感性に影響しないと示すため」。「目が見えないと美しい風景や人の表情が見えないから感性が育たない」という見方に対し、「『見ないで想像すること』の訓練を重ねてきた視覚障害者の感性が劣っているはずがない」と強く主張しているのである。

  • ◎著者プロフィール

    1943年東京生まれ。1967年東京女子大学文理学部数理学科入学。1971年日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。点字変換用ソフトを開発し、コンピュータからデータを点字で打ち出すことに日本で初めて成功。1973年同社を退社。1986年声楽を学び始める。1994年「全日本ソリストコンテスト」入賞。1995年から「奏楽堂日本歌曲コンクール」3年連続入選。1999年「太陽カンツォーネ・コンコルソ(クラシック部門)」第1位。