『国際メディア情報戦』 (高木 徹 著)
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■国際世論を動かす、銃を使わないもう一つの戦い
「国際メディア情報戦」。それは、国家、企業、PRエキスパート、メディアの担い手たちの間で行われている、銃を使わないもう一つの戦いである。
日本人の多くは、国家間の情報戦というと、CIAやM15といった情報機関が水面下で暗躍し、「極秘情報」をいかに入手するか、といった戦いをイメージするかもしれない。しかし、メディアが高度に発達した現代では、情報はむしろ「出す」ものというのが世界の常識となっている。重要な情報こそ外部に発信し、少しでも多くの人の目と耳に届け、人々の心を揺り動かして世論を形作るための「武器」とする。それが国際社会を生き残る上で不可欠な「情報戦」なのである。本書は、メディアの力を利用してグローバルな世論を味方につけ、世界を動かしてきたプロたちの手法を、国際的な事件や紛争などの実例を通して解説。日本人に欠けている「国際メディア情報戦」の視点からニュースを見ることの重要性を伝えている。 -
■第三世界の新興勢力を手助けする欧米のPR会社
冷戦後、特に第三世界の国家やそれと対立する勢力が、国際世論を動かそうと、こぞって「国際メディア情報戦」に参入した。「国際メガメディア」を動かし、自らの正当性を効果的にアピールできれば、それがそのまま国際政治の現実となるからだ。たとえば1990年代のボスニア紛争をめぐる情報戦に勝利して国際世論を味方につけた、当時のボスニア・ヘルツェゴビナ政府外相のハリス・シライジッチはこう語る。「石油も核兵器もない我が国の問題を国際社会の最重要課題にするためには、メディアの力を利用し、国際社会を牛耳る欧米諸国にプレッシャーをかけることが最重要の国家目標になる」
その手助けをするのが欧米の大手PR会社だ。彼らは広告代理店のように金で広告スペースを買うのではなく、メディアにクライアントの意志を反映させるのだが、その手法は巧みで、当のメディア関係者もいつのまにか操縦されている事例を本書ではうかがい知ることができる。 -
◎著者プロフィール
1990年東京大学文学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして『民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕~』『情報聖戦~アルカイダ 謎のメディア戦略~』『沸騰都市』など数々の大型ドキュメンタリー番組を手がける。番組をもとに執筆した『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』(講談社文庫)で講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞をダブル受賞。『大仏破壊 ビンラディン、9・11へのプレリュード』(文春文庫)では大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。