『弱いロボット』 (岡田 美智男 著)
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■他力本願なロボット開発のきっかけとなったホンダの『アシモ』
「ロボット」の語源は、「私たちの代わりに働いてくれる機械」である。それゆえ、ロボット開発の方向性は必然的に、いかに高度な機能を加えていくか、いかに自律させるか、というものになる。ところが著者の岡田氏はこれまで、手も足もなく動くことのできないロボット『む~』(移動するにはヒトに運んでもらう必要がある)や、動き回ることはできても、手がなくてゴミを拾えない『ゴミ箱ロボット』(ゴミ拾いそのものはヒトにやってもらう)など、全くの他力本願なロボットを開発してきた。
きっかけとなったのは、ホンダの二足歩行ロボット『アシモ』の登場だった。これまでのロボットが、片方の足に重心を置きつつも恐る恐る重心をもう片方の足底に移していくという「静歩行」モードだったのに対し、アシモでは、自らその静的なバランスを崩すようにして倒れ込みながら、踏み出した足が地面からの反力を受けるのを利用して動的なバランスを維持するという、「動歩行」モードが実現されていたのだ。 -
■いつも他者を予定しつつ、他者から予定される存在
この「動歩行」で気づかされたのが、身体と地面の間の「委ねる/支える」という絶妙な連携プレーについてだったと岡田氏は言う。私たちはふだん何気なく一歩を踏み出すが、そこには、地面が支えてくれるという無意識の期待のもと、自分の身体を地面に委ねてみるという小さな“賭け”がある。そして、支えてくれる地面という“受け”があってはじめて「歩行」という一連の行為が成り立つ。私たちは自力で歩いているようでも、実は「他者(地面)」によって支えられているのだ。
そうであるならば、『む~』や『ゴミ箱ロボット』のように、他者に委ねることを前提にしたロボットがあってもいいではないか、というのが岡田氏の発想だった。ポイントは、「一人では動こうにも動けない」という、自分の身体に備わる「不完全さ」を悟りつつ他者に委ねる姿勢を持てるかどうか。つまり、他者へのまなざしを持てるかということだ。その目指すところは、「いつも他者を予定しつつ、他者から予定される存在」となることである。 -
◎著者プロフィール
1960年生まれ。東北大学大学院工学研究科博士課程修了後、NTT基礎研究所情報科学研究部、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)などを経て、現在、豊橋技術科学大学情報・知能工学系教授。コミュニケーションの認知科学、社会的・関係論的ロボティクス、ヒューマン-ロボットインタラクション、次世代ヒューマンインタフェースなどを専門とする。主な著書に『口ごもるコンピュータ』(共立出版)など。