『神様のホテル』 (ビクトリア・スウィート 著)

『神様のホテル』 ‐「奇跡の病院」で過ごした20年間

『神様のホテル』  (ビクトリア・スウィート 著) 

著 者:ビクトリア・スウィート
訳 者:田内 志文/大美賀 馨
出版社:毎日新聞社
発 行:2013/12
定 価:2,400円(税別)


【目次】
1.小さなお世話
2.「転移」という愛
3.ディー・アンド・ティーの来訪
4.テリー・ベッカーの奇跡
5.スロー・メディスン
6.ドクター・ダイエット、ドクター・クワイエット、ドクター・メリーマン
7.グレン・ミラーとブラムウェルさん
8.カナの婚宴
9.私のお気に入り
10.素晴らしい国
11.命への帰還
12.神様のホテル

  • ■行き場所のないあらゆる人のために開かれた「神様のホテル」

     少子高齢化で医療に対する関心が高まっているが、病院が効率化を追求していく中で患者と医師との絆は失われつつある。本書は、1867年にサンフランシスコに開院し、行くあてのない慢性疾患を持った人々や、回復の兆しのない病人のためのシェルターとして機能していたラグナ・ホンダ病院に医師として勤務した著者による、患者との心温まる交流を描いたベストセラーであり、同時に現代における医療のあり方について本質的な疑問を投げかけるものである。
     著者が初めてラグナ・ホンダ病院の正門をくぐった時に目にしたのは、優雅さと陰鬱さが同居した、12世紀ロマネスク様式の修道院が並び立つ光景だった。ラグナ・ホンダは救貧院、またはフランス人が呼ぶところの「神様のホテル」だった。ほかに行き場所のないあらゆる人のために開かれた、なんでもありの施設――。著者はここで2ヵ月だけ働くつもりだったが、すっかり虜になり、20年以上働くことになった。

  • ■時間をかけて患者と向き合う「スロー・メディスン」

     クララ・ミューラーさんは、転倒して股関節の骨を折り、手術後に意識が混濁したが原因が分からず、アルツハイマーと診断された。一日中ベッドに横たわり、鎮痛剤が欲しいときだけ口を開く状態となり、ラグナ・ホンダに連れてこられた。しかし、著者がレントゲン写真を撮ると、人工股関節がソケット部分から外れていたことが判明。矯正手術で痛みが消えると鎮痛剤なしで歩けるようになり、認知症の心配もなくなり、入院から6ヵ月後、自宅へと戻ったのである。
     彼女の場合、正しい診断および余裕を持って患者の再評価を行うことで、結果的に医療費を削減することができた。様子を毎日チェックし続けることで、彼女は認知症でないことが分かったのだ。こうしたケアは高くつくと捉えられがちだが、彼女が残りの人生を病院で過ごすのにかかるコストを考えると安いものだ。そしてこれは、時間をかけて患者と向き合う「スロー・メディスン」を実践しているラグナ・ホンダだからこそできることでもあった。

  • ◎著者プロフィール

    医師。サンフランシスコのラグナ・ホンダ病院に20年以上にわたり勤務。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部准教授。歴史と社会医学で博士号取得。本作「神様のホテル(God’s Hotel)」で、2012年カリフォルニア州ノンフィクション大賞受賞。2013年、優れたノンフィクションに与えられるガルブレイス賞候補作品にノミネートされる。
    公式サイト:www.victoriasweet.com