『なぜ、「異論」のでない組織は間違うのか』(宇田 左近 著)

『なぜ、「異論」のでない組織は間違うのか』

『なぜ、「異論」のでない組織は間違うのか』(宇田 左近 著) 

著 者:宇田 左近
出版社:PHP研究所
発 行:2014/05
定 価:1,500円(税別)


【目次】
1.「異論を唱える義務」とは
2.公的機関の改革から見えた「マインドセット」問題の存在
3.「異論を唱える義務を課す」組織を創出するには
4.「異論を唱える義務」を負った国会事故調
5.「マインドセット」の罠に陥らないために

  • ■「異論を唱える義務」が責任回避を許さない組織環境を創出する

     「私は聞いていなかった」。組織に問題が生じた時に経営陣が口にする常套句である。しかし、著者が所属していたコンサルティング会社マッキンゼーでは「それを言ったらおしまい」だった。「聞いていない」のは、周りの人々が「その人には情報を伝える意味がない」と判断したことの証しとみなされるからだ。本書では企業改革を専門とする著者が、組織が集団思考に陥り、責任回避や不作為を当たり前としてしまう「マインドセット」について解明し、その解決策を伝えている。
     マッキンゼーでは、行動規範の一つとして「異論を唱える義務」=「相手の意見が違っていると思ったら、相手が上司でも年齢・年次が上でも、あえて発言する義務」が課せられていた。社内の者同士が互いを慮って何も言わない状況は、問題が生じた時に責任回避ができる状況を生んでしまう。しかし「異論を唱える義務」という規範を課せば、それを許さない組織環境が創出されるのだ。

  • ■「異論を唱える義務」の意味を理解した人材を拡大再生産する

     著者は、郵政改革を機に民営化準備会社に参画し、複数の省庁からの出向者や郵政公社の責任ある人たちと企業変革を進めることになったが、彼らは組織の内部合理性を優先させ、責任回避のために周到な論理を展開し、自らの非を認めることがなかった。このような「集団思考型マインドセット」を持つ組織の対極に、出身・経歴、性別、入社年次などにおいて多種多様な人材を許容し、上司に対しても異論を唱えることは義務だとされる組織が存在する。
     そうした組織で働く人々は自らの職能を高め、必要があれば転職も厭わないことから、結果的に人材の流動性も高まる。多様な人材が集まり、部門を超えた組織横断的なチームが形成されることで、前例のない課題解決を行うことが可能になる。「集団思考型マインドセット」を転換する場合には、このようなプロジェクトチームを組織に構成し、「異論を唱える義務」の意味を理解した人材の拡大再生産を図ることが近道になる。

  • ◎著者プロフィール

    ビジネス・ブレークスルー大学(学長・大前研一)経営学部長・教授。東京大学工学系大学院修士、シカゴ大学経営大学院修了(MBA)。マッキンゼー・アンド・カンパニー、郵政民営化有識者会議委員、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(委員長・黒川清、通称「国会事故調」)調査統括等を経て現職。専門は経営戦略・企業変革。特に、民営化、自由化等の環境変化下における公的機関等の組織改革に多数従事。