『宇宙に挑むJAXAの仕事術』(宇宙航空研究開発機構 著)
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■”What if?” Games手法で「想定外のリスク」をつぶす
日本の宇宙開発といえば、宇宙飛行士の活躍などについてはよく耳にするが、その裏で宇宙航空研究開発機構(JAXA)のメンバーたちがどんな段取りを組んで様々なプロジェクトを成功させているかについてはほとんど知られていない。本書では、JAXA職員に徹底取材して分かった彼らの仕事術について紹介している。
JAXAでは、リスク要因の洗い出しに「”What if?” Games」と呼ばれる手法を活用している。新しい装置を開発するときに、「もしかしたらこんなことも起きるんじゃないか」(=What if?)という意見を出し合い、隠れたリスクを「見える化」するのだ。「船内保管室」をスペースシャトルに載せて宇宙に打ち上げるときも、「もしスペースシャトルからの電力供給が切れたらどうするのか」という「What if?」が出された結果、もう一系統の電源を確保し、船内保管室は無事に取り付けられた。できるだけ多くの人の視点から検証し、「想定外のリスク」をつぶすことが重要なのである。 -
■「深く広く」知識や技術を持つゼネラリストの育成で組織力を上げる
一人の人材を、広範な知識や技術を持つゼネラリストに育てるか、専門分野を深めていくスペシャリストに育てるかは、組織における人材育成の課題である。その点、JAXAではゼネラリストの育成を是とし、その方策として管理職以外の職員にもプロジェクトのマネージメントを任せている。プロジェクトを動かすには、プロジェクト全体を管理するための知識や技術が必要で、自然とゼネラリストに育っていくのだ。例えば、電気や機械工学の知識がなければ発注先のメーカーから提出された設計図面を評価することはできないし、他方でNASAのタフネゴシエーターと渡り合うための交渉力なども身につける必要がある。
また、「浅く広く」ではなく、「深く広く」がJAXAのゼネラリストの特長だ。一人ひとりが「深く広い」知識を持つゼネラリストならば、プロジェクトにおいて互いに知恵を出し合い、他のメンバーをフォローすることができる。「深く広く」の人材が増えれば、組織としてのパフォーマンスは飛躍的に向上するのである。 -
◎著者プロフィール
2003年10月、宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)が一つになり、宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行うことのできる機関として誕生。「空へ挑み、宇宙を拓く」というコーポレートメッセージのもと、人類の平和と幸福のために役立てるよう、宇宙・航空が持つ大きな可能性を追求し、さまざまな研究開発に挑んでいる。