『ルポ 高齢者ケア』 ‐都市の戦略、地方の再生(佐藤 幹夫 著)

『ルポ 高齢者ケア』 ‐都市の戦略、地方の再生

『ルポ 高齢者ケア』 ‐都市の戦略、地方の再生(佐藤 幹夫 著) 

著 者:佐藤 幹夫
出版社:筑摩書房(ちくま新書)
発 行:2014/05
定 価:800円(税別)


【目次】
1.超高齢社会の未来を創る
2.「死に至る孤立」を防ぐ
3.「高齢弱者」という課題
4.認知症ケアと「地域の介護力」
5.過疎地域の再生モデル
6.もう一つの「石巻の記録」

  • ■15世帯の高齢者集合住宅からはじまった上野村の高齢者ケア

     平成25年版の「高齢社会白書」によれば、総人口は前年度より28万人減少したが、65歳以上の高齢者は104万人増加した。しかし、施設における高齢者の虐待死や、医療や介護の非人道性を訴える声は少なくなく、「普通に老いて、普通に死ぬ」ことが当たり前だと考えられなくなっている。それができるのは「一握りの恵まれた、幸せな高齢者」であるという事態は、さらに進んでしまうのではないか。本書では、高齢者問題に長年取り組んできたジャーナリストの著者が、高齢者ケアの充実という課題は地域の活性化と両輪で考えるべきと提言する。
     群馬県上野村は人口1370人、高齢化率42.6パーセントの過疎村であるが、早い時期から高齢者の保健・医療・福祉に取り組んできた。その礎をつくったのは、高齢者対策に深い関心を寄せていた先々代村長の黒沢丈夫氏で、平成元年にモデル事業として高齢者集合住宅を15世帯つくったのがはじまりだった。

  • ■高齢者ケアと地域づくりはつながっている

     現在、上野村の「いこいの里」には、介護福祉施設、デイサービス、グループホーム、医師が常駐する「へき地診療所」などの建物が並び、高齢者生活福祉センター(集合住宅)が隣接し、これらはすべて廊下でつながっている。黒沢村長時代からの目標は、保健・医療・福祉の一体化した行政サービスだった。医療が健康を守り、社会福祉協議会と提携しながら在宅支援のためのヘルパーや配食を保障してきた。集合住宅の部屋代は、年金額が60万円までは無料で、いちばん高い120万円以上でも7000円。18部屋すべてが満室だ。
     近年では、一人になっても村で生活したい、大変になったらデイサービスを使ったりヘルパーさんに来てもらい、それでも大変になったら集合住宅に行きたい。そのように考える人が増えている。上野村の暮らしにおける安心と安全はしっかりと守られている。だからこそ村独自の取り組みもよりいっそう効果を発揮する。ケアと地域づくりとはつながっていて、そこに相乗効果が生じるのである。

  • ◎著者プロフィール

    フリージャーナリスト。1953年秋田県生まれ。批評誌『飢餓陣営』主宰。自立支援センター「ふるさとの会」相談室顧問。主な著書に『ルポ 高齢者医療―地域で支えるために』『ルポ 認知症ケア最前線(以上、岩波新書)、『知的障害と裁き―ドキュメント 千葉東金事件』(岩波書店)、『十七歳の自閉症裁判―寝屋川事件の遺したもの』(岩波現代文庫)、『自閉症裁判 レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』(朝日文庫)などがある。