『なぜローカル経済から日本は甦るのか』 ‐GとLの経済成長戦略(冨山 和彦 著)

『なぜローカル経済から日本は甦るのか』 ‐GとLの経済成長戦略

『なぜローカル経済から日本は甦るのか』 ‐GとLの経済成長戦略(冨山 和彦 著) 

著 者:冨山 和彦
出版社:PHP研究所(PHP新書)
発 行:2014/06
定 価:780円(税別)


【目次】
1.グローバル(G)とローカル(L)という二つの世界
2.グローバル経済圏で勝ち抜くために
3.ローカル経済圏のリアル
4.ローカル経済圏は穏やかな退出と集約化で寡占的安定へ
5.集約の先にあるローカル経済圏のあるべき姿
6.GとLの成長戦略で日本の経済・賃金・雇用は再生する

  • ■G(グローバル)の世界、L(ローカル)の世界各々で成長戦略を描くべき

     日本ではGDPと雇用の約7割をサービス産業が占めており、そのほとんどはローカルな市場で経済活動を行っている。しかし、日本の経済成長を考える際に、そうした第三次産業を中心とする地方経済が顧みられることは少ない。本書では、製造業やIT産業を中心とするグローバル経済圏を「Gの世界」、ローカル経済圏を「Lの世界」として、それぞれが共存をはかりつつ互いに独立した戦略を立てることを主張。具体的な方策について論じている。
     「Gの世界」では、世界の競合企業のなかでトップクラスに入らないと生き残れない。一方「Lの世界」では、同じ商圏でなければ競争自体発生しない。岩手県と宮崎県の路線バス会社は競合関係にない。スーパーなど日用品や食料品を購入する店には、通り一本外れるだけで別々の顧客がつく。Lの世界の企業は、へたにグローバルに拡大・拡散するよりも、地域における顧客との密着度合いを高めたほうが儲かるのだ。

  • ■生産性の低い企業に穏やかな退出を促すとともにコンパクトシティ化を

     Lの世界では企業間の競争が不完全であるため、生産性が低い、あるいはサービスが悪い企業が淘汰されない。そうした企業は賃金を上げることができないため、ローカル経済圏全体の人手不足はなかなか解消されない。こうした現状から、著者は生産性の低い企業には、穏やかに退出してもらうべきと提言する。そのためにはまずサービス産業の最低賃金を上げることだ。Gの世界で最低賃金を上げると空洞化が加速しかねないが、Lの世界ではその心配はない。岩手県のバス会社が、ベトナムに移動して営業することはありえないからだ。
     ローカルエリアではコンパクトシティ化をめざすべきだ。まず地方のターミナル駅周辺に、介護施設、病院、保育施設を集約するところから始める。通勤の便がよく、徒歩でほとんどの買い物を済ますことができ、病院や育児のための環境が整っていれば、子育て世代も集まる。集約化は公共サービスのコストを下げるため、財政的にもプラス効果がある。

  • ◎著者プロフィール

    経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。1960年生まれ。ボストン・コンサルティング・グループ入社後、コーポレイト・ディレクション社設立に参画、後に代表取締役社長に就任。産業再生機構設立時にCOOに就任。兼務している現職は、オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、中日本高速道路社外監査役、みちのりホールディングス取締役、経済同友会副代表幹事、財務省・財政投融資に関する基本問題検討会委員、内閣府・税制調査会特別委員など。