『60歳からの生き方再設計』(矢部 武 著)
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■「他人の世話になりたくない」という考え方を捨てる
大企業の役員であれ管理職であれ、定年になれば肩書きのない「ただの自分」に戻る。しかし、人生はそこで終わるわけではない。新しい生きがいを見出し、社会とのつながりをつくり直さなければ、充実した老後を送るのは難しくなる。本書では、自身も還暦を迎えた著者が、シニアとして見事な人生を送っている人たちに、定年後の生きがい、社会とのつながり、愛と性、新しい働き方などについて取材し、それらの共通項から導き出した「第二の人生」の再設計法を著している。
超高齢社会を迎えた日本では独居高齢者の孤立死が増えているが、そのかげにある「他人の世話になりたくない」という考え方に問題点がある。そういう人は、他人の世話にならずに生きていくのが「自立」だと考えているのかもしれないが、行政や地域社会などから必要な支援を受けながら、自分や家族を追いつめることなく、最後まで自分らしく生きていくのが「本当の自立」ではないだろうか。 -
■地域や人とのつながりをつくり、「自立力」を養うことが大切
元航空会社職員の岩崎路子さん(91歳、仮名)は、体は不自由だが必要な支援を受けながら、都内の集合住宅に一人で自立した生活を続けている。岩崎さんは自宅を改造し、浴室などに手すりをつけ、床をすべりにくい材質に取り替えた。友人・知人もよく訪ねてきて、一緒にお茶を飲んだり、ご飯を食べたりする。いざという時のために部屋に非常通報装置を備え付け、何か起きたらボタンを押せば、警備会社のスタッフがすぐに駆けつけてくれるようになっている。さらに同じ集合住宅に住む友人に合鍵を預けてあり、いつでも部屋をチェックしてもらえるようになっている。
岩崎さんのように、社会とのつながりをもち、人との交流を楽しんでいる独居者の場合は、たとえ一人で亡くなったとしても比較的早く発見される可能性が高い。退職者もできるだけ地域や人とのつながりをつくるように努め、「自立力」を養っていくことが大切だ。それが孤立や孤立死を防ぐことになる。 -
◎著者プロフィール
ジャーナリスト。1954年埼玉県生まれ。1970年代の渡米以降、日米の両国を行き来し、取材・執筆活動を続けている。米ロサンゼルスタイムス紙東京支局記者を経てフリーに。著書に『アメリカ病』『ひとりで死んでも孤独じゃない』など多数。