『クロネコ遺伝子』 ‐生き続ける「小倉昌男」イズム(岡田 知也 著)

『クロネコ遺伝子』 ‐生き続ける「小倉昌男」イズム

『クロネコ遺伝子』 ‐生き続ける「小倉昌男」イズム(岡田 知也 著) 

著 者:岡田 知也
出版社:日本経済新聞出版社
発 行:2014/11
定 価:1,400円(税別)


【目次】
1.こだわり続けた原点
2.見つめていた心
3.やさしく言う天才
4.生き続けるから遺伝子

  • ■ヤマト運輸小倉昌男元社長のエピソードから同社に受け継がれる遺伝子を探る

     個人向け小口貨物配送サービスを日本で初めて成功させた「クロネコヤマトの宅急便」。当時の運輸業界の常識を破る同事業を始めたのは、ヤマト運輸社長(当時)、小倉昌男氏である。本書では、ヤマト運輸の社員として小倉氏から経営を学んだ著者が、同社や、自身を含む同社出身者に受け継がれているDNAともいえる「クロネコ遺伝子」を、小倉氏の発言やエピソードから解き明かしている。
     小倉昌男氏は、経営において「心」を重視していた。幹部や社員には、頭でっかちな経営用語を使わずに、心で理解できる「ひらがな言葉」で語りかけた。そして、知識ではなく「考え方」を重んじた。「考え方」は、頭で身につけようとしても、その人自身の考え方にはならない。それゆえ、小倉氏は、分かりやすい言葉で話しかけ、相手が心で理解、納得できるようにしたのだ。どんなに優れた「考え方」でも、その人自身のものになっていなければ、急な事態に対応できない。

  • ■会社の利益よりも「生活者」であるお客さんの都合を優先する

     小倉昌男氏は、社員は「寿司屋の職人」を見習うべし、と語った。寿司屋の職人は自分で仕入れに行き、寿司を握り、お茶くみをし、店の掃除をする。また、寿司屋の職人は、お客さんの好みに合わせて、その日の新鮮なネタで寿司を握る。お客さんは、自分好みの寿司が食べられる寿司屋をひいきにする。そうした「多能工」であり、お客さんの好みに合わせたサービス精神を持つことを、ヤマト運輸の社員に身につけさせようとしていたのだ。
     小倉氏は消費者という言葉を嫌い、顧客のことを「生活者」と呼んだ。宅急便という自社のサービスが、生活者のなかにどのように溶け込んでいるか、笑顔のきっかけになるか、身近に感じてもらえているか、といったことを常に気にした。会社の利益よりも、生活者の都合をまず考える。宅急便のマークに込められた、親猫が子猫(お客さんの気持ちが込められた荷物)を大切にする「心」こそがクロネコ遺伝子の正体なのかもしれない。

  • ◎著者プロフィール

    マイルブリッジ(株)代表取締役、マイルエキスプレス(株)代表。1983年慶應義塾大学法学部卒業後、ヤマト運輸(株)入社。郵政民営化時に旧郵政公社に転職。後に、郵便事業(株)で集配営業推進部長などを歴任した後、マイルブリッジ(株)を設立。上場企業から中堅企業までを対象に配送員改革、デマンドチェーン構築などを支援。ペンネーム青田卓也としての著書に『社長でなくても変革は起こせる!』(日本経済新聞出版社)などがある。