『京都から大学を変える』(松本 紘 著)
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■日本の大学の諸問題解決に取り組む京大の改革を旗振り役の前総長が語る
日本の大学はさまざまな問題を抱えている。大学進学率の上昇と、規制緩和による大学新設急増による大学「全入」時代が到来。学生募集に困った大学は推薦やAO入試など学力不問の入試で入学者を確保するようになり、学生の質の低下を招いた。大学教育のレベル低下も指摘され、世界の大学ランキングでもアジアの大学の後塵を拝するようになってきている。本書では、そうした日本の大学の現状を踏まえ、国立大学法人京都大学がどのような改革を進めているのか、それを牽引した前総長が基本的な考え方と具体策を語っている。
京都大学は、2016年度から「高大接続型京大方式特色入試」という新しい入学者選抜制度を導入する。書類審査で高校での学修と活動(受賞歴やTOEICのスコアなど)、入学後に向けての意欲などを評価したうえで、各学部ごとにセンター試験成績や能力測定考査、論文、面接、口頭試問を組み合わせて選抜を行う。 -
■特色入試、教養教育、大学院を改革し「異・自・言」を備えた人材を育てる
京大方式特色入試に込められた思いは、「高校時代に受験科目以外も含め幅広く勉強し、教養の土台をしっかり身につけた学生に京大に来てほしい」というものだという。しっかりとバランスのとれた基礎学力、教養が身についていなければ、専門を究めることは難しく、新しい発想も生まれにくいからだ。
大学教育については、2013年に「国際高等教育院」を発足させ、教養教育の体系化と充実に取り組んでいる。また、文理融合の分野横断型大学院である総合生存学館(通称「思修館」)を新設。博士課程5年のうち最初の2年で専門を修了し、残り3年で高度な教養教育をするという斬新な大学院だ。
著者は、京大の教養教育のキーワードとして「異・自・言」を打ち出している。「言」は外国語能力、「自」は自分理解力と自国理解力、そして「異」は異文化や異分野を理解する力だ。この三つを備えた教養あるグローバル人材を京大は社会に送りだそうとしているのだ。 -
◎著者プロフィール
京都大学名誉教授、工学博士。1942年生まれ、奈良県出身。1965年、京都大学工学部電子工学科卒業。同大学工学部助教授、同大学生存圏研究所教授、同初代所長を歴任。同大学理事・副学長を経て、2008年第25代総長に就任。2014年退任。国立大学協会前会長。専門は宇宙プラズマ物理学、宇宙電波科学、宇宙エネルギーエ学。Gagarin Medal、Booker Gold Medal、紫綬褒章などを受章。著作に『京の宇宙学』『宇宙太陽光発電所』など。