『大格差』 ‐機械の知能は仕事と所得をどう変えるか(タイラー・コーエン 著)

『大格差』 ‐機械の知能は仕事と所得をどう変えるか

『大格差』 ‐機械の知能は仕事と所得をどう変えるか(タイラー・コーエン 著) 

著 者:タイラー・コーエン
訳 者:池村 千秋
出版社:NTT出版
発 行:2014/09
定 価:2,400円(税別)


【目次】
1.超実力社会の到来
2.機械の知能
3.新しい世界

  • ■格差拡大に影響するコンピュータと人間のあるべき関係を探る

     世界中で格差の問題がクローズアップされている。日本をはじめ多くの国で「中流」や「平均」といった生活感覚が過去のものになりつつある。本書は、そのような状況を生んだ要因の一つとして「賢い機械」の進化を挙げ、あるべき人間と機械の協働について論じている。
     賢い機械、すなわちコンピュータはこれからの世界での働き方に大きな影響を及ぼす。自分のもつ技能がコンピュータを補完できるのならば、職に就いて高い賃金を得ることも可能だ。しかし、そうでなければ見通しは暗い。今後は働き手のほとんどがこの二通りに分かれるかもしれない。
     コンピュータと上手につき合える人は成功することができるだろう。ただし、数字に強い、あるいはプログラミングができるというだけでは不十分。これらはコンピュータだけでできるからだ。それよりも、マーケティングなどの課題にどのようにコンピュータを活用すればいいかを直感的に理解できる人の需要が大きくなる。

  • ■フリースタイル・チェスにおける人間とコンピュータの協働にヒントが

     「フリースタイル・チェス」というチェスの競技スタイルでは、多くのプレーヤーがコンピュータのアドバイスを聞きながらプレーをする。コンピュータは優れた処理能力で大量の情報を吐きだす。だが、その中からどの手を打つかを決めるのは人間であるプレーヤーだ。コンピュータのチェスプログラムを自動運転にして任せきりにする人もいるが、そうしたプレーヤーは優勝できないことがほとんどだ。強い選手は、コンピュータと“協働”する。
     実世界のビジネスでも、フリースタイル・モデルが盛んになっていくことだろう。すなわち、機械が人間に取って代わるのではなく、機械は人間と協働するパートナーになっていくのだ。これから50年くらいはフリースタイル・モデルの時代が続くであろうと、著者は予測する。人間と機械がチームとして互いに補完し合うことが当たり前のものとして人々の意識に根づけば、機械や人工知能などの開発もそのような方向に進むはずだ。

  • ◎著者プロフィール

    米国ジョージ・メイソン大学経済学教授。1962年生まれ。ハーヴァード大学にて経済学博士号取得。2011年に「世界に最も影響を与える経済学者の一人」(英エコノミスト誌)に選ばれ、著書『大停滞』(邦訳・NTT出版)は「最も話題の経済書」(米ビジネスウィーク誌)と評され議論を巻き起こした。経済ブログ「Marginal Revolution」を運営するほか、最近ではオンライン教育プロジェクト「MRUniversity」も立ち上げている。