『縮小都市の挑戦』(矢作 弘 著)

『縮小都市の挑戦』

『縮小都市の挑戦』(矢作 弘 著) 

著 者:矢作 弘
出版社:岩波書店(岩波新書)
発 行:2014/11
定 価:820円(税別)


【目 次】
序.縮小都市の時代
1.甦るデトロイト
  ‐財政破綻から、都市再生の胎動へ
2.トリノを再位置化する
  ‐ポストフォーディズムの都市づくり
3.人口減少と高齢化の最先端を走る日本

  • ■縮小都市の再生に不可欠な「成長神話からのパラダイムの転換」

     急激な人口減少と経済的衰退のために、世界中の都市が「縮小」し、時に破綻している。日本でも2005年?10年度に人口10万人以上の269都市のうち、約4割近い104都市が人口を減らした。こうした縮小都市を「持続可能な都市」として再生するためには、「大きくなることはいいことだ」という成長神話からのパラダイムの転換が必要である。
     本書は、都市の縮小が常態化し、反転の気配がないならば、縮小を「都市発展の新たな方向性」と考え、望ましい「都市のかたち」を達成する方向で活用する方途を探る。縮小のプロセスで生じた「空き」(空き家、空き地、空きビル、廃校等々)を、負債とは考えず、都市再生の資源として再活用するなど、実際に破綻からの再生を目指している米国デトロイトとイタリアのトリノの事例を紹介しつつ、「小さく、賢く、成長する」という、これからの「持続可能な都市のかたち」を提言する。

  • ■都市間競争から都市間協働/連携へ

     日本では、人口減少が急で、高齢化率が40%を超える「持続可能性の危機」にある地方都市は、2010年の4都市から、40年には279都市に急増すると予想される。それらの都市の財政力は当然、脆弱になる。そこで国の施策として「平成の合併」があった。「自立できなければ、大きな自治体に吸収合併されて〈規模の利益〉を達成せよ」という訳だ。千葉大学の関谷昇教授がその危険性を指摘する「競争原理による徹底した効率主義の追求」である。だが「限界都市化」する縮小都市は、国が描く「自立の道」とは別に、都市同士が相互に協働/連携して持続可能性を希求すべきである。競争原理では「隣接市に立派な音楽ホールや大型店ができたのでうちも欲しい」といった、公共施設や大型店のフルセット誘致競争を招く。その結果、利用されない施設や空き店舗が残る。都市間競争ではなく、都市間協働/連携こそ、「持続可能な都市のかたち」ではないだろうか。

  • ◎著者プロフィール

    1971年横浜市立大学卒業。日本経済新聞ロサンゼルス支局長、編集委員、オハイオ州立大学客員研究員、大阪市立大学大学院創造都市研究科教授などを経て、現在、龍谷大学政策学部教授。ジャーナリスト。博士(社会環境科学)。主な著書に『町並み保存運動 in U.S.A.』(学芸出版社)、『大型店とまちづくり』(岩波新書)、『「都市縮小」の時代』(角川新書)など。