『日本郵政』(井手 秀樹 著)
-
■上場を控えた超巨大企業の特性、現状、将来展望をフラットな視点で分析
2007年10月に日本郵政公社から民営分社化されて誕生した日本郵政は、2015年秋に上場し、国が100%所有していた株式が売却される見込みになっている。本書は、22万人の従業員を抱え、売上高約15兆円の超巨大企業となる同社をフラットな視点から分析。その特殊性や現状、これまでの経緯、そしてこれからどのような会社をめざすのかを論じている。
日本郵政及び日本郵便は、法律によって「ユニバーサル・サービス義務」を負っている。ユニバーサル・サービスとは、国民が必要とするサービスを、全国一律の料金で、公平、安定的に提供することを指す。
私たちの生活はかなり便利になってきているとはいえ、都市と地方には依然として格差がある。銀行がない地域、コンビニがない地域もある。それでも郵便局はたいていの土地に設置されている。民間の金融機関ならば採算が合わないような地にも、郵便局だけは存在し、住民の生活を支えている。 -
■国内最大の“コンビニエンスネットワーク”郵便局の活用が民営化成否のカギ
郵便局では、郵便物の取扱いの他にもさまざまな商品やサービスを提供している。住民票の写しなどの公的証明書の交付、バス回数券などの販売、公的施設の利用申し込みなど、地方公共団体の事務サービスの代行、また、他の保険会社との提携により簡保以外の各種金融商品を販売する郵便局もある。さらには「みまもりサービス」のような新たな試みも行われている。これは、郵便局員が地域の高齢者を定期的に訪問し、生活状況を確認して遠方の家族に報告する、日常生活の悩みや相談に応じる、など生活支援サービスだ。
全国に24,000局を設置する郵便局は、国内最大の“コンビニエンスネットワーク”ともいえる。実際、コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンの店舗数はこれを下回る約16,300店だ。とくに地方では欠かせないライフラインとしての役割を果たしてくことが望まれる。このネットワークを「攻め」の姿勢で活用できるかが、民営化のカギとなるだろう。 -
◎著者プロフィール
慶應義塾大学商学部教授。 1949年福岡県生まれ。神戸大学大学院経済学研究科修了後、三菱総合研究所等を経て、1996年に慶應義塾大学商学部教授に就任。ビジネスブレイクスルー大学客員教授を兼任。2012年原子力発電環境整備機構(NUMO)理事。2013年より公益事業学会会長。日本経済政策学会常務理事、郵政行政審議会委員などを歴任。 現在、情報通信審議会など多数の審議会の委員を務める。1999年郵政大臣賞を授賞。