『シェルターからコックピットへ 飛び立つスキマの設計学』(椿 昇 著)
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■閉塞感のあるシェルターを視界の広いコックピットへ変えるための方策を提案
閉塞感が漂い、まるで暗いシェルターの中のような現代社会。それを、明るく見通しのよい、新しい世界へ飛び立つ飛行機のコックピットに変えるにはどうすればよいか。本書では、著者自身の活動やインタビューをもとにその答えを探っている。
著者は、教育の根本は「対話」にあると考えるが、大学の一般教養科目やゼミに「対話」をテーマにしたものがほとんどないと嘆く。教育の現場での教師の役割は、「教える」ことよりも、対話の中で「聞き出す」ことにあるというのだ。キャッチャー役としていろんな投球を受け止めるうちに、相手が自分でも気がつかなかったようなことをも引き出せる。
著者は、禅の「公案」が一つのヒントになると言う。公案とは、悟りの境地に達したかどうかを確認するための問答で、簡単には答えの出ない不条理な質問の答えを探していくものだ。日本の未来をつくるイノベーションには、非論理的な思考に頭を悩ませることが必要ということだ。 -
■パブリックな“ハードウェア”をもっとカッコよくリノベーションすべき
著者は、人々が愉しく創造的に生きる社会をつくるためには、「心」のようなソフトウェアだけでなく、「空間」というハードウェアが重要だという。
一般企業のオフィスや、公立中学校の職員室は、実に殺風景であることが多い。日本人はパブリックな空間に愛を注ぐことが少ないのだ。一方で、多くの人が自分の車や家のようなプライベートな空間にはたっぷり愛情をかける。自分の部屋の配置や、自家用車の装飾にはやたらと凝る人が多い。だが著者は、プライベート空間ではなく、パブリックなオフィスや職員室をカッコよくすることを提案する。空間が変われば、そこでの対話も活発になる。
カッコよくするためのリノベーションは、社内ボランティアを募ったり、学校の生徒と一緒に行うのがよい。ワイワイおしゃべりをしながら作業をすることで活気が生まれる。できあがった空間が多少いびつであっても、そこはアットホームな温かい空間になるはずだ。 -
◎著者プロフィール
現代美術家。京都造形芸術大学教授、美術工芸学科長。1953年京都市生まれ。中高一貫の女子校教師時代は不登校などの生活指導にも手腕を発揮。バスケットボール部顧問として弱小チームをリーグ7部から1部に昇格させる。近年は「考え方を考える」をテーマに中学生向けのワークショップをはじめ、幅広い年代の教育に携わる。瀬戸内国際芸術祭2013・2016では、アートによる持続可能な地域づくりのモデルを提示。